書肆サイコロ(高円寺)骨董品店の趣が濃い中に個性的な写真集やアート本が
高円寺には20軒余りの本屋さんがあり、「本の街商店会」という団体ができている。その関係者から「説明しづらいから、ともかく行ってみて」と風変わりな推挙を受けた理由が、すぐに分かった。
アンティークの机やチェスト、トランク、ガラス器、三角定規が目に入る。重たそうな小型機械だなーと思ったら「活版印刷機です。今も使ってますよ」と、サイトヲヒデユキさん(55)。骨董品店の趣が濃い店なのだ。
そんな中に、個性的な写真集やアート本が50冊ほど置かれていた。
「33年前からグラフィックデザイン全般をやってまして、中心は本で……。出版社などから頼まれてデザインした本と、うちで出版した本。できると、ここで原画展示もしてきました」
サイトヲさんは穏やかに話す。装丁やアートディレクションの分野で知られた人だと、同行カメラマンの耳打ちでようやく気づく。置かれている本全てに、独特の風合いがある。サイトヲさんが手がけた作品ばかりなのだ。
胸に迫るものがありすぎて困った
「最近できた写真集がこれ」とサイトヲさんが手にしたのが、「ユルリ島の馬」(岡田敦著、青幻舎)。物憂げな馬の顔写真が、ブルーグレーの表紙にある。
「ユルリ島は根室沖の無人島です。もともと北方領土に住んでいた人たちが、戦後、昆布漁を求めて10頭以上の馬を連れて渡った島なんです」とサイトヲさん。やがて人々が住みきれず、馬を残して島を離れるも、その後、写真家の岡田さんが航路もないのに15年間通って撮った写真が収められているとのこと。見返しに使われているのは「馬糞紙」。ページを開くにつれ、胸に迫るものがありすぎて困った。「岡田さんは、ドローンを飛ばさず、自らハンググライダーに乗って空撮を行っているんです」が、サイトヲさんのとどめの一言。
ほかにも、1934年からの沖縄・離島の風景が収められた建築家、故・金城信吉さんの写真集や、大雪原を2人のスキーヤーが行く写真が表紙の雪文化の雑誌「Stuben Magazine」など、一味も二味も異なる写真集や雑誌をくまなく見た。
◆杉並区高円寺北4-31-16/JR中央線・総武線高円寺駅から徒歩8分/不定期に開店、インスタグラム(@saicoro_photo)やX(@shoshi_saicoro)で確認を。
ウチの推し本
「SABINKA A MAKULKA」出久根育著
「紙の厚さ、素材感、色、これでいいのか──と、私はいつも最後の最後まで悩んで作りますが、この本もそう」
著者は、チェコのプラハ郊外に長く住む画家。サビンカとマクルカは共に暮らす猫で、並んで座ったり、伸び上がったり、追いかけて戯れ合ったり。イキイキとした姿が描かれている。文字がゼロなので、読みながら物語を作っていくのも楽しそうだ。函入り。限定1000部。(gallerykasper企画発行 8690円)