「運命の旅」アルフレート・デーブリーン著 長谷川純訳

公開日: 更新日:

 1920年代後半のベルリンを舞台に、刑務所を出た主人公が数々の試練を経て、新たな人間として覚醒していく……。

 ドイツ都市文学の最高傑作として有名な「ベルリン・アレクサンダー広場」。その作者デーブリーンは東欧ユダヤ人の家庭に生まれ、ベルリンで育つ。同作はベストセラーになったが、年を追うごとにナチスの勢力が拡大し、33年1月、ついにヒトラーが政権を握る。自らの著書がブラックリストに載り、危険を感じたデーブリーンは、家族と共にパリに亡命する。

 本書は、そのパリへ、ドイツが侵攻してくる40年5月から始まる。パリ西部の街に住む「ぼく」と妻と末息子の3人は、パリから脱出しようとするが、同様に逃げ出そうとする人々で街は大混乱。妻と息子を先に逃がし、ぼくは友人らと南へ。ところが分かれた家族はなかなか見つからない。ようやく奇跡的な再会を果たすが、もはやフランスは安全でなく、一家はアメリカのハリウッドへ亡命。戦争が終わりドイツへ戻り、ドイツ文化を育てることを自らの使命として活動するが、時代は大きく変わっていた……。

 ナチスに追われ、悪夢のような逃避行の日々と戦後の混沌とした状況を描いた傑作ドキュメンタリー。

(河出書房新社 4800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    もしやり直せるなら、入学しない…暴力に翻弄されたPL学園野球部の事実上の廃部状態に思うこと

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  4. 4

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???

  5. 5

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  1. 6

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  2. 7

    JLPGA専務理事内定が人知れず“降格”に急転!背景に“不適切発言”疑惑と見え隠れする隠蔽体質

  3. 8

    「俳優座」の精神を反故にした無茶苦茶な日本の文化行政

  4. 9

    (72)寅さんをやり込めた、とっておきの「博さん語録」

  5. 10

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動