「幸あれ、知らんけど」平民金子著
「幸あれ、知らんけど」平民金子著
以前、東京都副知事だった頃の猪瀬直樹が、車が通っていないのに横断歩道で信号を守っている歩行者を、「個人の決断がない」とSNSに投稿した。だが、それは誰も見ていなくても自分の行動を規定するほどの存在を意識しているかどうかを問う問題である。そういう何かに見られているような感覚こそが信仰の源泉なのだろうか。
朝、登校する児童の列に「行ってらっしゃい」と言っても子どもには無視される。子どもは大人など眼中にないと意識すると、不思議に心が安らぐ。10代だった著者に祖母が書き残した「ただ幸あれ」という言葉の「ただ」の意味を、いつも梅の咲く季節に思う。
(「『ただつっ立っている』意味」)
家族や町などにまつわる、記憶に残ることを記した61のエッセー。 (朝日新聞出版 1870円)