「会社を潰すな!」小島俊一著

公開日: 更新日:

 ふと気づくと、今まで駅前にあった本屋がなくなっている。事実、この20年で全国の書店数は半減している。1700余ある全国自治体のうち本屋が一軒もない自治体が500近くあるという。本書は、そんな逆風の中、経営不振に陥っている書店に出向を命じられた銀行員が主人公だ。

【あらすじ】鏑木健一は金沢銀行桜町支店の元支店長。成績不振のため同支店は閉店、その責任を取る形で出向を命じられた先は、金沢市内を中心に6店舗を展開する老舗の書店クィーンズブックス。一時期は書店業界で時代の寵児と呼ばれていたが、現在は5期連続赤字で銀行の「破綻懸念先」に区分されている。上司からは暗に、下手に再建策など講じず閉店して過剰貸し付けを回収するようにいわれている。この出版不況の中、この本屋とどう向き合うか迷いつつも鏑木は初出勤する。

 店からすれば鏑木は銀行から店を潰すために派遣された「招かれざる客」だ。冷たい視線を浴びる中、鏑木は「実践なき理論は無意味だが、理論なき実践も無力」だといって、店長たちに経営理論の基礎知識を学ぶようにいい、夫の死で後を継いだ女性社長には決算書の読み方を講義していくことを発表。現場を知らない上から目線の考えだと反発を受けるが、鏑木の地道な努力は徐々に伝わっていく。

 鏑木の方も、本が好きで店のことを真剣に思う店長たちの思いを受け止め、起死回生の方策に打って出る……。

【読みどころ】著者は長く取次のトーハンに勤め、その後経営不振の老舗チェーンの社長に就任し、見事V字回復させた実績の持ち主。本書にはその実体験が込められており、地方書店の良きモデルケースにもなっている。 <石>

(PHP研究所 800円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも