「カンパニー」伊吹有喜著

公開日: 更新日:

 近年では雇用調整のほかに労働環境の改善、人材の育成・交流など多目的に活用されている「出向」。とはいえ、それまでの業務とまったく畑違いの分野への出向を命じられたら戸惑うのは当然だろう。製薬会社の総務畑を歩んできた本書の主人公の出向先は、なんとバレエ団。このむちゃな人事に主人公はどう対処していくのか?

【あらすじ】青柳誠一47歳は大手製薬会社の有明製薬に入社して25年。最初の3年を営業部に在籍した後は総務畑で過ごしてきた。

 同製薬は製菓会社を吸収合併して有明フード&ファーマシューティカルズと社名を変更。社名変更のイメージキャラクターになったのは天才バレエダンサーの高野悠で、年末に日本の敷島バレエ団の公演に客演することになった。

 同バレエ団には社長の娘がトップバレリーナとして在籍していることもあって、全社挙げての協力態勢を敷いている。青柳はそのバレエ団に出向して公演を是が非でも成功させる役目を命じられたのだ。

 しかし、長年連れ添ってきた妻が突然別れを言い出して、中学生の娘を連れて家を出てしまい途方に暮れる青柳。そこへ肝心の高野が古傷が再発し踊れないと言い出す。おまけに上層部の暴走で、高野の相手に人気のダンスユニットのバーバリアン・Jの若手を起用することに。

 そんな素人相手に踊れるかと憤る高野と面目を潰されて戸惑うバレエ団の面々。次々に舞い込むトラブルに青柳は、総務部で培ったスキルを使いながら誠実に取り組んでいく……。

【読みどころ】実力があるのに力を発揮できないバレリーナ、信頼していたマラソン選手に裏切られて再起を図るスポーツトレーナーなど脇役陣も魅力的。宝塚歌劇団で舞台化もされた秀作。<石>

 (新潮社 800円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  2. 2

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  3. 3

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  4. 4

    最後はホテル勤務…事故死の奥大介さん“辛酸”舐めた引退後

  5. 5

    片山さつき財務相“苦しい”言い訳再び…「把握」しながら「失念」などありえない

  1. 6

    ドジャースからWBC侍J入りは「打者・大谷翔平」のみか…山本由伸は「慎重に検討」、朗希は“余裕なし”

  2. 7

    名古屋主婦殺人事件「最大のナゾ」 26年間に5000人も聴取…なぜ愛知県警は容疑者の女を疑わなかったのか

  3. 8

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  4. 9

    高市内閣支持率8割に立憲民主党は打つ手なし…いま解散されたら木っ端みじん

  5. 10

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘