「お局美智 経理女子の特命調査」明日乃著

公開日: 更新日:

 横領事件の理由には、金銭にまつわるトラブルの他に日本企業特有の家族主義的な価値観も一因と指摘されている。職場を家庭の延長のように思って横領も親の財布からくすねる程度の感覚で、あまり罪悪感を持たないというのだ。

 本書に登場する横領を犯した経理課長はこう不平を述べる。「役員たちは会社の金を自分のもののように使い、社員は受注のノルマや経費削減でヒーヒー言っている」と。これは、親だけいい目を見て子供だけが損をしていると言い換えられる。そんな甘えに主人公は、「そんなことは、今に始まったことではないじゃありませんか」と切って捨てる。

【あらすじ】佐久間美智は中堅企業NOMURA建設の経理課に勤める入社18年のベテラン。陰では“お局美智”と呼ばれているが、彼女には誰も知らない秘密があった。

 先代の社長が会長に退く際に、手だれの役員たちから新任社長の息子を守るため、会社支給のモバイル端末に盗聴機能を仕込んだ。その情報チェック係として美智が特命を帯び、以降、クラウド上の音声ファイルにアクセスして、情報をチェックするのが美智の日課となる。

 美智の耳には、社内不倫、横領、事故隠しといった数々の問題が飛び込んでくる。見て見ぬふりもできるが、自分の居場所たるこの会社の危急存亡に関わる不祥事が起きれば、なんとしても未然に回避しなければならない。美智はとっておきの「情報」を武器に、果敢に難問に乗り出していく……。

【読みどころ】社内盗聴といい、一介の社員がスーパーヒロインとして活躍することといい、いささか現実離れした設定だが、取り上げられている問題はいずれもリアル。情報管理の大切さを教えてくれる。      <石>

(文藝春秋 740円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  5. 5

    巨人正捕手は岸田を筆頭に、甲斐と山瀬が争う構図…ほぼ“出番消失”小林誠司&大城卓三の末路

  1. 6

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  2. 7

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因