「これより良い物件はございません!」三沢ケイ著

公開日: 更新日:

 リモートワークの普及で、最近では都心から離れた神奈川県の湘南エリアと千葉県の房総半島エリアの一戸建ての価格が上昇しているという。これが今後どう続くかはわからないが、これまでは港区、中央区、千代田区の「都心3区」、それに新宿区、渋谷区、文京区を加えた「都心6区」のブランド力のある地域のマンションは値下がりしにくいというのが常識であった。本書は都心6区の一角、渋谷区広尾に事務所を構える不動産屋に勤める女性が主人公。

【あらすじ】藤堂美雪は賃貸住宅の仲介を扱う小さな不動産会社の窓口スタッフとして働いていた。ところが同棲していた同僚の恋人から突然別れを告げられ、逆上した勢いで辞表を提出。住んでいたマンションからも引っ越すことにして部屋を探し始める。当てもなく入った広尾の不動産屋だがさすがに高級住宅地、1Kでもどれも10万以上、完全に予算オーバーだ。

 そこに飛び込んできたのが「正社員募集」の張り紙。こうして美雪はこのイマディール不動産で働くことに。社長含めて社員10人だが、事業のメインはマンションのリノベーションで、土地柄、高額取引が多い。初めての営業だが、腕利きの先輩、桜木の指導のもとで美雪は、クライアントの希望を聞きながら理想の部屋を提供するこの仕事にやりがいを見つけていく。それと同時に桜木への思いも募らせるがなかなか一歩を踏み出せない。スキルアップのために受験する宅地建物取引士の試験に合格したら思い切って告白しようと決める美雪だが……。

【読みどころ】高級住宅地で低予算を希望する家族、リフォームせずに高値で売ろうとする家主など厄介な問題に立ち向かう美雪の奮闘から、現在の住宅事情が透けて見えてくる。 <石>

(宝島社 720円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    世良公則氏やラサール石井氏らが“古希目前”で参院選出馬のナゼ…カネと名誉よりも大きな「ある理由」

  2. 2

    新横綱・大の里の筆頭対抗馬は“あの力士”…過去戦績は6勝2敗、幕内の土俵で唯一勝ち越し

  3. 3

    年収1億円の大人気コスプレーヤーえなこが“9年間自分を支えてくれた存在”をたった4文字で表現

  4. 4

    浜田省吾の父親が「生き地獄」の広島に向ったA.A.B.から80年

  5. 5

    山尾志桜里氏は出馬会見翌日に公認取り消し…今井絵理子、生稲晃子…“芸能界出身”女性政治家の醜聞と凄まじい嫌われぶり

  1. 6

    「徹子の部屋」「オールナイトニッポン」に出演…三笠宮家の彬子女王が皇室史を変えたワケ

  2. 7

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題?

  4. 9

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償

  5. 10

    フジ親会社・金光修前社長の呆れた二枚舌…会長職辞退も「有酬アドバイザー」就任の不可解