佐高信
著者のコラム一覧
佐高信評論家

1945年山形県酒田市生まれ。「官房長官 菅義偉の陰謀」、「池田大作と宮本顕治 『創共協定』誕生の舞台裏」など著書多数。有料メルマガ「佐高信の筆刀両断」を配信中。

「サービサーの朝」前野理智著/伏流社

公開日: 更新日:

 新聞屋、略してブンヤが気取ってジャーナリストなどと名乗ってから、迫力ある記事が見かけられなくなったように、この国ではカタカナは大抵、何かを隠す時に使われる。サービサーもそうである。借金取り立て、つまりは取り立て屋なのに、何か新しい商売ででもあるかのように、1998年に「債権管理回収業に関する特別措置法」、通称「サービサー法」が制定された。それによって、弁護士の独占業務だった債権回収が、法務省から許可を受けたサービサーという名の債権回収会社にもできるようになったのである。

 中坊公平ならぬ「上之坊晋平」がトップの整理回収会社、通称「RCC」は9番目に許可を受けたサービサーだった。このRCCだけが政府系で、後はすべて民間となるが、これは銀行系、信販系、ノンバンク系、そして独立系に分かれる。これらがどういう回収をしているか。それが実際に存在する会社をモデルにした「フューチャー」に在籍していた著者によって赤裸々に描かれる。回収つまりは取り立てがどんなに荒っぽいものかは、許可取り消しになったサービサーが次のように挙げられることでも分かるだろう。

 センチュリー債権回収株式会社、プレミア債権回収株式会社、日本リバイバル債権回収株式会社、卯浩債権回収株式会社、株式会社ハドソンアドバイザーズ債権回収、GEキャピタル債権回収株式会社、エフビー債権回収株式会社、アサックス債権回収株式会社。

 法務省許可と言っても、業務内容を詳しく調べて許可しているわけではなく、実際の回収が街金や闇金並みのアブナイものになっているのを黙認と言って悪ければ、見ないフリをしているのである。それは、最初は多かった銀行出身者が街金や闇金出身者に取って代わられているという実態が雄弁に物語っている。最初に業務停止命令を受けたサービサーはセンチュリーだった。法人税などの滞納額が1億5000万円にもなり、「業務執行を決する取締役会及びその職務執行を監督する監査役がその本来求められる機能を喪失し、その結果、債権管理回収業の適正な遂行を確保するために必要な法令順守の体制が欠如し」ているとしてダメ出しされたのである。

 悪徳サービサーの内幕を描くことを通して浮かび上がる現代日本の闇の深さに読者は戦慄するだろう。そしてコンプライアンスを唱える法務省の無責任さにも腹が立つはずである。 ★★半(選者・佐高信)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異