「日本経済の黒い霧」植草一秀著/ビジネス社

公開日: 更新日:

 本書は、ウクライナ戦争を含む最新の世界情勢を踏まえた経済評論だ。ただし、よくある経済評論とは一線を画している。

 例えば、ウクライナ戦争は、米国が仕掛けた罠にロシアがはまった可能性があるとの話から、本書は始まる。そこまでバイデン大統領が考えていたかは別にして、ウクライナ戦争が、大統領自身の支持率回復、米国産天然ガスの販路拡大、軍事産業への利益供与、子息がかかわるウクライナ企業捜査の封印、ロシア批判沸騰という著者が掲げる5つのメリットを持っていることは事実だろう。

 その他にも、小泉構造改革の徹底批判や消費税増税批判など、本書は主流派の評論家とは異なるスタンスを取っている。それが可能な理由は、著者の活動がメルマガなどの読者に支えられていて、スポンサーに忖度する必要がないからだと思う。

 大手メディアでは、事実上正面切って批判できない相手がある。米国、内外の巨大資本、外資、財務省などだ。著者は、そうした相手を厳しく批判し、日本が彼らによって、どれだけ破壊されたのかを綿密に検証している。それをみれば、この四半世紀で日本経済が大転落した理由が手に取るように分かる。

 著者は、90年のバブル崩壊を予測した数少ないエコノミストの一人だ。だから、構造分析とともに興味をひかれるのは、著者が近未来をどう予測しているのかという点だ。

 著者はアメリカの株価は異常な高騰をしていて、それが崩壊する可能性は高いとみている。実は私も同じことを考えていたが、意外な点が2つあった。一つは、株価下落のタイミングだ。私は米国金利の引き上げで、年内に暴落が始まると考えていたが、著者は景気が後退し、金利が低下する1~2年後だという。もうひとつは、その時はドルも下落するという見立てだ。もしそれが正しいとすると、いま米国株に投資をしている国民は、いますぐ処分しないと大きな痛手を被ることになる。

 リーマン・ショックが起きた直後でも、金融機関系のエコノミストの9割が買い推奨をしていた事実からも、激動期に彼らの言説は信用できない。だから誰の束縛も受けていない著者の分析は、とても貴重なのだ。

★★★(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  2. 2

    長嶋茂雄引退の丸1年後、「日本一有名な10文字」が湘南で誕生した

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  5. 5

    ドジャースが村上宗隆獲得へ前のめりか? 大谷翔平が「日本人選手が増えるかも」と意味深発言

  1. 6

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  2. 7

    レーダー照射問題で中国メディアが公開した音声データ「事前に海自に訓練通知」に広がる波紋

  3. 8

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  4. 9

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  5. 10

    巨人が現役ドラフトで獲得「剛腕左腕」松浦慶斗の強みと弱み…他球団編成担当は「魔改造次第」