著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「夜の少年」 ローラン・プティマンジャン著 松本百合子訳

公開日: 更新日:

 息子を持つ父親が読むと、つらい小説だ。長男フスが10歳のときに母親が亡くなる。最後の3年間は、父と一緒に毎週、闘病の母を見舞った。素直ないい子だった。だが徐々に勉学から離れ、付き合う友人も変わっていく。

 父親はガチガチの左派で、フスが幼いころは一緒にビラ配りに出掛けたが、いまはもう行動をともにすることはない。

 それどころか、フスが付き合う友人は、ファシズムの象徴であるケルト十字の描かれたバンダナを首に巻くような連中だ。それを指摘すると、彼らはいい連中で、人種差別主義者ではないと言う。だから、父親は自分に言い聞かす。フスは麻薬依存症でもないし、この界隈を怯えさせるような下劣な行為をしているわけでもない。ただ、幼少期を過ぎて親から少しだけ離れるようになっただけだと。それに、弟のジルーに対するこまやかな愛情は変わらないのだ。

 帯に書いてあることなのでここにも書いてしまうが、そのフスが人を殺してしまうのが後半のヤマ場。それには事情があるのだが(それは本書を読まれたい)、殺人をおかしたことは事実で、父親の悲しみはついにピークに達する。

 留意すべきは、フスが何を考えていたのか、ここまでいっさい描かれてこなかったことで、だからラストに出てくる、父に対するフスの手紙に胸を打たれる。深い余韻が素晴らしい。

(早川書房 2420円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    U18高校代表19人の全進路が判明!プロ志望は7人、投手3人は中大に内定、横浜高の4人は?

  2. 2

    「時代に挑んだ男」加納典明(43)500人斬り伝説「いざ…という時に相手マネジャー乱入、窓から飛び降り逃走した」

  3. 3

    巨人・田中将大が好投しても勝てないワケ…“天敵”がズバリ指摘「全然悪くない。ただ…」

  4. 4

    永野芽郁が“濡れ場あり”韓流ドラマで「セクシー派女優転身、世界デビュー」の仰天情報

  5. 5

    《浜辺美波がどけよ》日テレ「24時間テレビ」永瀬廉が国技館に現れたのは番組終盤でモヤモヤの声

  1. 6

    沖縄尚学・末吉良丞の「直メジャー」実現へ米スカウトが虎視眈々…U18W杯きょう開幕

  2. 7

    世界陸上復活でも「やっぱりウザい」織田裕二と今田美桜スカスカコメントの絶妙バランス

  3. 8

    「24時間テレビ」大成功で日テレが背負った十字架…来年のチャリティーランナー人選が難航

  4. 9

    15年前に“茶髪&へそピアス”で話題だった美人陸上選手は39歳、2児のママ…「誹謗中傷もあって病んだことも」

  5. 10

    日本ハム新庄監督は来季続投する?球団周辺から聞こえた「意味深」な声