著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「広重ぶるう」梶よう子著

公開日: 更新日:

 役者絵と美人絵で名をあげた国貞、武者絵に活路を見いだした国芳。この豊国門下の双璧に比べると、豊広門下の広重はおのれの道が定まらず悶々としている。その広重が異国の色と出合うところから本書は始まる。それが伯林で作られたぷるしあんぶるう。伯の藍、ということでベロ藍。

 それまでの藍に比べて水に溶けやすいベロ藍を生かせるのは景色、海や川、なによりも空。つまりこのベロ藍を使えば、これまでの名所絵が必ず変わる。そう確信して広重は「東海道五十三次」にとりかかる。

 ちなみに、本書の登場人物の言葉を借りれば、名所絵が美人絵や役者絵の下に見られる理由は、名所絵は動かないものを描けばいいからだという。そういえば、こういうせりふも出てくる。

「北斎翁は名所絵が一段下がると知っていても、そこに切り込んで行く気概がある」

 広重はベロ藍と出合うことで、その気概を持つのだ。そのときの広重を、作者はこう書いている。

「心が踊る。国貞も国芳も、悔しがれ。見ていろ、北斎よ」

 本書は、そこから始まる浮世絵師広重の半生を鮮やかに描く長編だ。働き者で明るい後妻お安をはじめとする脇役たちが活写されているのもいい。特に、幼いころに広重に弟子入りし、将来を嘱望されながら若くして亡くなる昌吉の挿話が物哀しい。「ヨイ豊」「北斎まんだら」に続く浮世絵師小説の傑作だ。

(新潮社 2310円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  3. 3

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  4. 4

    高市政権大ピンチ! 林芳正総務相の「政治とカネ」疑惑が拡大…ナゾの「ポスター維持管理費」が新たな火種に

  5. 5

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  1. 6

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 7

    沢口靖子vs天海祐希「アラ還女優」対決…米倉涼子“失脚”でテレ朝が選ぶのは? 

  3. 8

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  4. 9

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  5. 10

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち