著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「マウンテンガールズ・フォーエバー」鈴木みき著

公開日: 更新日:

 登山をモチーフにした作品集だ。5編の主人公はすべて女性である。高校生から専業主婦、アラサーの派遣女子まで、さまざまな女性が登場して山との関係が描かれていく。

 どの短編も読ませるが、ここでは「クライミングジム・シンデレラ」をとりあげておきたい。語り手である二階敏子は、週に最低1回(多いときは4回)ジムに通っている。学生時代はワンダーフォーゲル部に所属していた敏子は、自宅から車で20分のところにあるジムに通ってストレスを発散している。この50代の専業主婦の鬱屈した日々が描かれていくのだが、威圧的な夫との静かな生活が絶妙に描かれていて、なかなかにうまい。

 42歳の志村千穂が山岳会の仲間と八ヶ岳に行く「ザイル・パートナー」で、年下の亨との会話に(千穂は会社の後輩にプロポーズされるからモテモテなのだが、実は亨を意識している。おお、どうなるんだ)、この二階敏子の名前が出てくる。「二階女史も来ればよかったのに」と言う亨に、「二階さんは、昔ワンゲルの後輩が八ヶ岳で亡くなったとかで、それから八ヶ岳には行けないんだって。昨日ジムで言ってました」と志村千穂が答える場面だ。

 その八ヶ岳で亡くなった後輩の娘が語り手になるのが「母がいた八ヶ岳」。このように、微妙に重なってつながっていく趣向もいい。

 これが初の小説ということだが、構成も造形も描写もいいのでぜひおすすめしたい。

 (エイアンドエフ 1870円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    萩本欽一(11)ひとりぼっち寂しく貧乏飯を食べながら「先生も同級生もバカだな」と思うことにした

  2. 2

    「男なら…」ヤクルト1位・村上宗隆を育てた父親の教育観

  3. 3

    社民・福島瑞穂代表と高市首相が35年前に共感しあっていた仰天「濃厚セックス対談」の中身

  4. 4

    大食いタレント高橋ちなりさん死去…元フードファイターが明かした壮絶な摂食障害告白ブログが話題

  5. 5

    ゾンビたばこ羽月隆太郎「共犯者暴露」の大きすぎる波紋…広島・新井監督の進退問題にまで飛び火か

  1. 6

    小手先、その場しのぎではもう駄目だ 長期金利急上昇は市場から高市への「退場勧告」

  2. 7

    追い込まれた高市首相ついに補正予算編成表明も…後手後手のくせして無能無策の極み

  3. 8

    佐々木朗希“初物尽くし”2勝目のウラに心境の変化…ドジャース指揮官が「以前との違い」を明かす

  4. 9

    ソフトBモイネロの体たらくに小久保監督イラッ…なぜ“同条件”の巨人マルティネスと差がついた?

  5. 10

    株主82万人に拡大も…前澤友作氏「カブ&ピース」のビジネスモデルは法規制に大きく左右される