著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「光のとこにいてね」 一穂ミチ著

公開日: 更新日:

 ゆずとかのんが知り合ったのは7歳のときだ。シャベルを取りに部屋に戻るとき、かのんは言った。

「そこの、光のとこにいてね」

 ゆずの立っているところだけぽっかりと雲が晴れ、小さな日だまりができていたのだ。

 団地の階段の下でゆずが立っていたのは、男の部屋を訪ねた母親に、そこで待っていなさいと言われたからである。そうして、同い年のかのんと知り合う。その団地に住むかのんは、インコの「きみどり」が唯一の友達だという少女だ。つまり、ゆずとかのんは、愛されることから切り離された少女である。日だまりの中で2人はそっと寄り添う。

 この長編は、そうやって知り合った2人の、25年間の交友を描く長編だ。もっとも切れ目なくずっと会い続けたわけではないことも書いておく。会わない期間も長く、そのまま2人の人生が永遠にすれ違っても不思議ではなかった。幼いときには仲がよくても、大人になるにつれて会わなくなるという関係のほうが自然だろう。ところがこの2人は再会する。だからこれは運命だ。

 友情小説なのか、百合小説なのか、それともシスターフッドなのか。そういう分類と区分けをしたくなるが、一度名付けてしまうとこの小説の持つ、奥行きとひろがりと余韻が消えてしまうような気がする。

 ここは、運命的なつながりを鮮やかに描いた作品として読みたい。一穂ミチのベストだ。

(文藝春秋 1980円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  3. 3

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  4. 4

    巨人阿部監督はたった1年で崖っぷち…阪神と藤川監督にクビを飛ばされる3人の監督

  5. 5

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  1. 6

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  2. 7

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  3. 8

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  4. 9

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  5. 10

    (2)事実上の「全権監督」として年上コーチを捻じ伏せた…セVでも今オフコーチ陣の首筋は寒い