著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「猿と人間」増田俊也著

公開日: 更新日:

 動物パニック小説である。襲ってくるのは猿だ。日本猿はかなり大きな雄でも体重は30キロ程度。犬でいえば、ラブラドルレトリバーくらいのサイズだというから、ヒグマに比べればかなり小さい。

 どうしてここで、比較対象としてヒグマを出したのかというと、増田俊也はヒグマが人間を襲う動物パニック小説「シャトゥーン ヒグマの森」でデビューした作家だからである。

 ちなみに、シャトゥーンとは冬ごもりに失敗し、食料を求めて雪の中を徘徊する「穴持たず」のヒグマのことだ。あれから15年、今度は猿と人間の戦いを描いたわけである。

 しかし、体重350キロのヒグマに比べれば、30キロの猿など怖くない──と言われるかもしれない。ところが違うのである。やっぱり怖いのだ。本書に出てくる猿が巨大化しており、中には50キロ近くある個体までいたりするからだ。しかも、群れのボス猿はなんと90キロ近い。

 さらに、注意しなければいけないのは、このボス猿が率いるのが850頭。その数の猿がボス猿の指示のもとにいっせいに襲ってくるのである。しかも、この850頭の猿は凶暴化しており、手がつけられない。

 猿軍団の襲撃を、どういうふうに防ぎ、どういうふうに戦ったか、そのディテールが凄まじい。立ち向かうのは、高校生に女子大生に老婆。はたして彼らは生き残れるのか、固唾をのんで見守るのである。

(宝島社 1650円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波