「朽ちないサクラ」柚月裕子著

公開日: 更新日:

「朽ちないサクラ」柚月裕子著

 警察は大きな組織であるから、当然のごとく、事務職の仕事も大きな役割を果たしている。ただ警察小説の場合、どうしても事件が中心になるので、捜査権限のない事務職員が活躍することはほとんどないのだが、本書は、広報課の事務職員が主人公という変わり種。

【あらすじ】森口泉は東北地方の米崎県警広報広聴課の職員。地元の大学を卒業後、3年間東京でOLをしていたが、母が病を患ったことを機に郷里に戻り、一般職採用で県警に就職したのだ。

 その日、広報課14人の職員は全員、朝から休む間もなく苦情電話の対応に追われていた。2週間前、女子大生が路上で男に刺殺された。犯人は以前から被害者にストーカー行為を行っていた。女子大生の両親は警察に何度も相談したが相手にされなかった。業を煮やした両親は、被害届を受理しないなら弁護士を立てると迫って、ようやく捜査をすることを約束。しかし、手が足りないという理由で受理期日を1週間延期。その2日後に事件が起きたのだ。

 ところが、実はその延期期間に職員の慰安旅行があったことを地元米崎新聞がすっぱ抜き、県民から苦情が殺到したのだ。同新聞には泉の高校時代の同級生、津村千佳が記者として勤めていたが、記事の載る2日前、泉はうっかり慰安旅行の件を千佳に漏らしてしまう。絶対に記事にしないように約束したのだが……。疑心暗鬼にとらわれている中、今度は千佳が遺体で発見される──。

【読みどころ】事件の真相を突き止めようと、泉は警察学校の同期、磯川の協力を得て独自に捜査を始める。タイトルの「サクラ」は公安部の符丁。捜査権限のない泉と公安がどう絡んでくるのか。著者のストーリーテリングの見せどころだ。 〈石〉

(徳間書店 748円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?