「完全黙秘」濱嘉之著

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 都道府県警察の中で唯一、警視庁には公安部が設置されている。公安総務課、公安第1~4課、外事第1~4課(2021年に3課から4課体制に再編)、公安機動捜査隊の部署に分かれている。公安総務課は国内のデモ対応、公安第1~3課は国内の団体の情報収集や捜査、公安第4課は資料管理。外事第1~4課は国際テロやスパイなど外国を対象にした捜査。公安機動捜査隊は主に爆発テロ事件の捜査担当といった具合だ。

【あらすじ】青山望は警視庁公安総務課第7事件担当の筆頭警部で係長、39歳。警部6年目で、ノンキャリアとしては出世の早いほうだ。折しも、福岡のホテルのこけら落としのパーティーで、次期総理候補の梅沢財務大臣が刺殺されるという事件が起きた。犯人はその場で逮捕されたが被疑者は完全黙秘を貫き、このままでは犯人の手掛かりになる情報がないまま結審してしまい、警察の威信が揺らぎかねない。

 総務課長から事件の背景を探るように命じられた青山は、10年ほど前に極左系のデモの警備に当たっていた公安警察官が暴漢に全治1週間のケガを負わされ、その犯人がやはり完黙を貫き氏名不詳のまま出所し、以降行方不明であることを知る。もしかしたら?

 青山は被疑者が拘束されている博多へ飛ぶ。そこで明らかになったのは、政治家、暴力団、芸能界が絡み合う大規模な薬物取引、売春組織という闇の世界だった。

【読みどころ】内閣官房内閣情報調査室、公安部総務課、衆議院議員政策担当秘書などの経歴を持つ著者ならではのリアリティーだが、本書が書かれたのは12年前。テロ事件に絡めて右翼団体を名乗る反共原理連合、霊感商法などのスキャンダルのある世界真理教などを物語の核に置いているのは先見の明か。 〈石〉

(文藝春秋 726円)

【連載】文庫で読む 警察小説

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