「香港陥落」松浦寿輝著

公開日: 更新日:

「香港陥落」松浦寿輝著

 時は1941年11月。香港にあるペニンシュラホテルに3人の男が集まった。日本人で日本語新聞の編集長・谷尾悠介、イギリス人でロイター通信の非正規社員・ブレント・リーランド、中国人で貿易会社の副社長である黄海栄。それぞれが自国の政府や諜報機関に関わりを持つが、深くは詮索せず、数年前から月に1、2度ともに広東料理を楽しみ、語り合ってきた。しかし、香港と国境を接する深を占領、封鎖してからの話題は戦争であり、「香港陥落」であった。

 日本軍が英米に宣戦布告をした12月、谷尾はペニンシュラホテルに2人を呼び出し、「香港運営の仕事を手伝ってくれれば……」と言った。

 谷尾の友人としての提案は却下され、3人が再会したのは5年後のことだった。3人はホテルのバーでぽつぽつとそれぞれの体験を語る──。

 本書は、日本軍とイギリス軍が交戦下にあった41年、終戦後の46年、61年の香港を舞台にした3人の男たちの物語。前半は谷尾の視点で、後半の「SideB」はリーランドの視点で、3人の会話からは計り知れない、思惑が描かれている。

 歴史が激しく動き始めるのに呼応するように、互いを疑いだし、その一方で国籍を超えた確かな友情の芽生えなど、「香港暗黒の3年8カ月」を挟んで男たちの交流を会話で浮き上がらせていく。 (講談社 1980円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  2. 2

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  3. 3

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  4. 4

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 5

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  1. 6

    半世紀前のこの国で夢のような音楽が本当につくられていた

  2. 7

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 8

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 9

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  5. 10

    プロスカウトも把握 高校球界で横行するサイン盗みの実情