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「安倍晋三 VS.日刊ゲンダイ」小塚かおる著

 安倍元首相の回顧録出版で始まった神話化が、安倍派の裏金問題でガラガラと崩れ始めている。



「安倍晋三 VS.日刊ゲンダイ」小塚かおる著

 小泉政権の官房長官時代から安倍は露骨にマスコミに圧力をかけ続けた。結果、特に第2次政権期に主流マスコミはこぞって安倍寄りになり、目を覆わせる翼賛ぶりに傾いた。そこで俄然気を吐いたのが、忖度を強いられる記者クラブに属さない在野メディア。特に本紙がその筆頭だったことはけっして手前味噌の話ではない。本書は安倍政治の失敗ぶりを分野別に整理し、日刊ゲンダイ編集局長が「強権政治」との長い戦いをわかりやすく総括する。

 第1章は経済。自慢のアベノミクスのおかげで日本がいかに世界から「取り残され」たかの顛末だ。第2章は再軍備化。改憲が安倍の悲願だったことは周知だが、トランプに媚びて米国兵器を「爆買い」するなど、表向き強気の姿勢の裏側にも目を配る。第3章は権力私物化。元財務省の職員・赤木俊夫さんの自殺問題を軸に「モリ・カケ」や「桜を見る会」などの経緯をたどる。いま明らかになりつつある安倍派の腐敗ぶりは、まさにこの延長だ。

 以下、高齢者や女性などへの社会福祉の無策と破壊、自民党内の“多様性”の喪失、そして政権と癒着した大マスコミへの批判と続く。

 大物政治評論家の故・森田実氏は「ゲンダイの出番がきた感じがしています」と激励してくれたという。いまも出番は続いている。

(朝日新聞出版 979円)

「安倍晋三実録」岩田明子著

「安倍晋三実録」岩田明子著

 惹句に「最も食い込んだ記者」と紹介された著者は元NHK政治部の安倍番記者。政治家の懐に入るのは記者の務めとはいえ、余りに露骨な“安倍派”ぶりがたたってか、射殺事件報道では上層部が現場から外すよう指示したとも伝えられたほどだ。

 もっとも「安倍評伝の決定版」と銘打たれた本書に意外な事実は多くない。安倍が外交で世界の首脳と丁々発止のやりとりを交わしたことをくわしく紹介し、特にトランプや習近平ら独裁者たちと気が合ったことを強調しているが、これも周知。むしろ安倍自身が独裁者体質だったことの表れではないか。

 著者によれば安倍を最も悩ませたのが「桜を見る会」スキャンダル。ただし悩んだ部分には触れない。「ファクトに基づく冷静な総括」のようでいて巧みに読者に自分を売りこんでいるところが著者のしたたかなところか。

(文藝春秋 1760円)

「戦後日本政治史」境家史郎著

「戦後日本政治史」境家史郎著

 本書は東大法学部の教科書にも使われているという最新の戦後通史。占領期から55年体制を経て高度成長、政界再編、小泉旋風から2度の安倍政権期にいたる歴史を手際よく見渡す。

 経済政策でリアリストぶりを発揮しつつイデオロギー的右派の姿勢で国論を二分した第2次政権時代の安倍。本書はその間の事情を淡々と記すが、その政治手法が対立点を自ら作って「死中に活を求める」小泉政治をヒントに、「分断」の緊張で世論の大向こう受けを狙うものだったことが伝わる。その結果起こったのが昔の55年体制型の対立構図。かつては左右幅広い議員を擁して自民党の対抗勢力として有力に機能した野党が「社会党化」し、中間層を取り込めなくなったという。

 著者は「55年体制的あり方が戦後日本の政党システムの基本型」という。それを十全に利用したのが安倍政治だったということだ。

(中央公論新社 1056円)

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