「野村重存作品集」野村重存著

公開日: 更新日:

「野村重存作品集」野村重存著

 各地のカルチャー教室などで講師も務める画家の作品集。

 子どもの頃から風景を眺めることが好きだったという著者が、その時々の気持ちのままに、出合った目の前の風景と向き合い、描いてきた作品が並ぶ。

 まずは、国内の風景を描いた水彩画を収録。

「何度も見ている場所でも時間や季節、天気によって異なるさまは、飽きることがない」と、数え切れないほど通ったという奥入瀬渓流(青森県)では、深い緑に包まれながら勇壮に流れる水音が聞こえてくるような豊かな水量を誇る夏をはじめ、紅葉に染まる錦秋など、季節によって異なるそれぞれの表情を描く。

 同じく、何度も訪れているという八甲田山(青森県)。本書には「萱野高原から望む八甲田連峰」(写真①)と題された作品が収録されている。

 緑一面の高原から、遠くにありながらその巨大さが分かるところどころにまだ雪が残る山塊まで、頭上に広がる青空と雲の競演とともに一枚に収めた雄大な作品だ。

 その風景の中を通り抜ける、さわやかな高原の風までもが感じられる。その風に乗り、雲が次々と変化して、さまざまな表情を見せてくれることまでが思い描かれ、いつまでも眺めていたい風景だ。

 また「雨晴海岸から望む剱岳」(富山県=写真②)は、富山湾の名所・女岩を中心とした岩礁に、海を挟んで背後にそびえる冬の立山連峰が迫ってくるような圧巻の風景だ。

 万葉歌人にも愛された絶景が今も変わらずここにある喜びさえ感じさせる。

 ほかにも、富士山や奥日光の戦場ケ原、宮崎県の高千穂など大自然の雄大な風景から、合掌造りの家々が並ぶ白川郷(岐阜県)や、安曇野(長野県)の「三連水車小屋」など、人間と自然の暮らしが一体となった里山の風景を活写。

 そして、雪にけぶる奈良の興福寺や京都の清水寺などのおなじみの名所まで、日本人には心の原風景ともいえる美しい風景が優しい筆遣いで水彩画に仕上げられている。

 中には、観光地として人気の埼玉県・川越の「時の鐘」と一帯の町並みを描いた作品(写真③)もある。観光用のレトロバスが町並みに花を添え、昭和にタイムスリップしたかのような温かみを感じる。

 同じように、ドイツの「ノイシュヴァンシュタイン城」や、フランスの「プロヴァンスの古い村 ボニュー」、イタリアの「ドロミテ」など、世界各地を旅した折の、心に留まった風景を描いた作品もある。

 著者は描画材にこだわりはない、と語る。鉛筆の濃淡だけで海と空と光を描き分ける「光芒」シリーズは圧巻。

 ほかにも、バカラグラスのなかで揺れるロウソクの光や、シロツバキやシャクヤクなどの花を描いた作品などの鉛筆細密画をはじめ、色鉛筆画や不透明水彩絵の具(ガッシュ)など、さまざまな描画材を用いて描いた作品も収録。

 趣味で絵筆を握る人のお手本にもなってくれることだろう。

(グラフィック社 2970円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    「高市早苗首相」誕生睨み復権狙い…旧安倍派幹部“オレがオレが”の露出増で主導権争いの醜悪

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  1. 6

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  2. 7

    パナソニックHDが1万人削減へ…営業利益18%増4265億円の黒字でもリストラ急ぐ理由

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が3年連続本塁打王と引き換えに更新しそうな「自己ワースト記録」

  4. 9

    デマと誹謗中傷で混乱続く兵庫県政…記者が斎藤元彦県知事に「職員、県議が萎縮」と異例の訴え

  5. 10

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず