「野生の鼓動Part1 日本の鷲」真木広造撮影・監修

公開日: 更新日:

「野生の鼓動Part1 日本の鷲」真木広造撮影・監修

 世界各地で野鳥の撮影を行ってきた著者の新たな作品集シリーズ。第1弾の本書では、日本国内に生息する野生の鷲類の写真が集成されている。

 巻頭を飾るのは、日本最大の山鷲であるイヌワシ。その大きさは翼を広げると2メートルほどにもなるという。

 低空で飛翔しながら獲物を探す姿をはじめ、急斜面の大きな岩の上で獲物が現れるのを待つ姿や、太く大きな脚の爪で獲物につかみかからんとしているその瞬間、そしてお気に入りの岩場で仲良く休息するペアなど、大自然の中で悠々と生きる彼らの凛とした孤高の美しさに見ほれる。

 イヌワシは、子育てのために断崖の岩棚や急斜面の大木に直径3メートルにもなる大きな巣をつくる。

 巣作りのために巣材となる枝を脚でつかんだり、口にくわえて飛ぶ姿や、巣ですくすくと成長する幼鳥の姿などもある。

 作品を見ているだけで、深山幽谷に生息するイヌワシの撮影の困難さがひしひしと伝わってくる。

 半世紀も前、山形県の葉山山頂で突然現れたイヌワシとの近距離での出合いに感動して以来、猛禽たちの「気高く、優雅に優しく、ある時は力強く、鋭く、そして厳しい自然の中で生き抜くさまざまな姿に魅了され」てきたという著者。

 その野生の瞬間をカメラに収めるためには、被写体となる野鳥の生態を熟知することにも膨大な時間と労力を費やしているという。さらに、環境の違いによる行動の違いや、個体別の癖や性格まで観察し、その行動の予測が可能になった時に初めて求める作品が撮影できるのだそうだ。

 自分の思い描いた姿を撮影するためにひたすらシャッターチャンスを待ち続け、ひとたびフィールドに出ると、その撮影は1日に16時間にも及ぶ。

 そうして野鳥たちと向き合い、撮影した渾身の作品が並ぶ。

 イヌワシに続いて登場するのは、極東アジアで繁殖し、冬に北日本に飛来する海鷲のオオワシだ。撮影の舞台は一転、北海道羅臼町の流氷で埋め尽くされたいてつく海だ。

 氷上で捕食中、獲物を狙う他の鷲を威嚇する姿や、海面の魚に狙いを定め今にもとびかかる寸前の姿、捕獲に成功して海面を飛ぶ姿、そして成鳥が捕獲したスケソウダラを横取りしようとする若鳥との攻防など。知床山脈を背景に厳寒の野生のドラマを活写。

 以降、オジロワシや日本にはまれにしか渡来しないカタシロワシ、かつて幻の鷲ともいわれたが近年は観察が容易になりつつあるというカラフトワシ、沖縄諸島ではカンムリワシ、翼を開くと3メートルを超える巨大なクロハゲワシ、日本ではまれにしか飛来しないが、ここ数年、同一個体と思われる成鳥が北海道の道東に姿を現しており、著者も3年がかりで撮影したというハクトウワシまで。

 威厳に満ちた空の王者たちが一冊に収まった貴重な写真集だ。

(メイツ出版 2860円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  2. 2

    巨人の“お家芸”今オフの「場当たり的補強」はフロント主導…来季もダメなら編成幹部の首が飛ぶ

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  5. 5

    国民・玉木雄一郎代表の“不倫相手”元グラドルがSNS凍結? 観光大使を委嘱する行政担当者が「現在地」を答えた

  1. 6

    星野監督時代は「陣形」が存在、いまでは考えられない乱闘の内幕

  2. 7

    若林志穂さん「Nさん、早く捕まってください」と悲痛な叫び…直前に配信された対談動画に反応

  3. 8

    米倉涼子に降りかかった2度目の薬物疑惑…元交際相手逮捕も“尿検査シロ”で女優転身に成功した過去

  4. 9

    国民民主から維新に乗り換えた高市自民が「政治の安定」を掲げて「数合わせヤドカリ連立」を急ぐワケ

  5. 10

    今オフ日本史上最多5人がメジャー挑戦!阪神才木は“藤川監督が後押し”、西武Wエースにヤクルト村上、巨人岡本まで