「化学の授業をはじめます。」ボニー・ガルマス著、鈴木美朋訳

公開日: 更新日:

「化学の授業をはじめます。」ボニー・ガルマス著、鈴木美朋訳

 舞台は1960年代のカリフォルニア。大手の化学研究所に勤めるエリザべス・ゾットは才能ある化学者だが、女性であるがゆえに仕事は同僚研究者の補助しか与えられず、苦闘していた。

 そんな職場でエリザベスは、変人だが天才化学者のキャルヴィン・エヴァンズと出会う。やがて2人は恋に落ち一緒に暮らし始める。エリザベスが自分の名前で研究を積むことを望み、結婚を断ったからだ。

 2人と1匹の犬との生活は幸せそのものだったが、ある日、事故でキャルヴィンが亡くなり、エリザベスは妊娠していることを理由に解雇され失業する。ところが、娘・マッドが6歳になったとき、ひょんなことから地元テレビ局の料理番組に出演、予想外に大ヒットする。

 社会全体が保守的だった時代に化学への情熱と料理への真摯な思いを持った主人公が、性差別に毅然とした態度で臨み、人生を歩んでいく姿を描くエンターテインメント小説。

 化学用語を使いながらおいしくて栄養のある料理の作り方を説明し、合間には社会通念を鋭く斬っていく。視聴者は感化され、ある主婦は心臓外科医に、ある女性は離婚を決意するなど自ら変化していく。キャルヴィンの出生に関わる寄付者の存在、エリザベスとボスの研究を巡る攻防などもつづられ、読みごたえもたっぷりだ。

 (文藝春秋 2750円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本は強い国か…「障害者年金」を半分に減額とは

  2. 2

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  5. 5

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  1. 6

    侍Jで加速する「チーム大谷」…国内組で浮上する“後方支援”要員の投打ベテラン

  2. 7

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    高市政権の物価高対策「自治体が自由に使える=丸投げ」に大ブーイング…ネットでも「おこめ券はいらない!」