「戦争語彙集」オスタップ・スリヴィンスキー作、ロバートキャンベル訳著

公開日: 更新日:

「戦争語彙集」オスタップ・スリヴィンスキー作、ロバートキャンベル訳著

 2022年2月下旬、ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まると、それまで平和な生活を送っていた多くの人々が突如戦火にさらされた。ウクライナ西部の都市リビウ在住の詩人オスタップ氏は、東部から逃げてきた避難民の支援をするかたわら、彼らからありのままの証言を聞き取り、戦争語彙集としてまとめ上げた。

 本書は、それらの言葉に衝撃を受けた日本文学研究者であるロバート キャンベル氏が自ら翻訳したものを、現地を訪ねた際の手記とともにまとめたもの。戦争によって人は言葉を失ったり言葉の意味が変化したりすることが、掲載されている証言から浮かび上がってくる。

 たとえば、バスルームという言葉は、戦争前は快適でリラックスできる場所を意味していたが、戦時下では家の中で隠れることが可能な最も安全な場所を意味するようになった。若者の間でテンションが上がったときに気軽に使われていた「爆ウケ」「爆上がり」という言葉が禁句になった。

 困難な状況で発せられる証言の断片から、言葉が物理的避難所とは別のもうひとつのシェルターなのではないかと訳著者は述べている。

 (岩波書店 2200円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも