著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

そぞろ書房(高円寺)ふたり出版社の“本屋さんごっこ”がきっかけでオープン

公開日: 更新日:

 高円寺駅の南に広がる「エトアール通り」の一隅。案内板に「引き戸をあけて202号室」とある。その引き戸とは、おしゃれさとは程遠いサッシのもので、かつてアパートだった築40~50年の建物の2階。10畳ほどの一室に「そぞろ書房」がある。

「来るのは、SNSを見て、という人がほとんどです」と、店長の小室有矢さん(34)。なぜここで?

「2022年6月から武蔵小金井で、『点滅社』という“ふたり出版社”をやってるんです。その年の暮れに“古本屋さんごっこ”的なことをこのスペースで行ったのがきっかけで……」

 点滅社の代表と小室さんとアルバイト君、編集プロダクション2人の計5人で、いわく「副業的に」23年4月に始めた、「ジン(個人が作った少部数の出版物)と古本・新刊」の店である。

充実のジンと古本・新刊、そしてシェア本棚の店

 一等地に「鬱の本」を見つけ、あ、と思った。この連載で回った独立系書店のほとんどが推していたが、点滅社が刊行した本だったのだ。「代表が鬱っぽかったとき、『長い文章はしんどいが、見開きくらいなら読める』と思ったんです。それで、鬱をテーマに84人の書き手に、見開き分の文章を書いてもらいました」。ほ~、そういう成り立ちだったのか。

「しないことリスト」「そだつのをやめる」「がんばらない練習」が目に飛び込んできて、生きづらい人への応援の本だな、と思えてくる。かと思うと、シェア本棚(12スペース)に、「切手」に関する本の数々と、珍しい古切手を売る棚、食や鉄道など台湾の本ばかりが並ぶ棚を見つけて、ほんわかしたり。

 さらに、詩集、日記、旅行記など集められたジンの高レベルさに舌を巻いたことも報告せねば。一例に、「mg.」とやら。「さつまいもをめぐる」特集。各種さつまいもとさつまいも菓子の紹介もさることながら、「なぜ菓子にするのか」に始まる「哲学タイム」なんてページもあって、大したものだ。

 詩歌、海外文学、名エッセーなどが集まったコーナーもことのほか。取材中、来店した1人の青年がそのコーナーの一冊を床に座って読み耽っている姿も好感度大だった。

◆杉並区高円寺南3-49-12 セブンハウス202号室/JR中央線・総武線高円寺駅から徒歩6分/水・金・土・日曜の14~20時

ウチの公式ジン

「そぞろ日記 vol.1」

「〈少なくとも2~3カ月というのは異常だと思います。よくやり切ったものだ……〉と仲間も書いています。2022年12月末に、『この場所で何かやってみたら』と声がかかって、翌23年1月にやることにした。2月に店名が決まって4月にマジで開店した、無鉄砲集団『そぞろ書房』の日記です。何の参考にもならないかと思いますが、読んでください」

(そぞろ書房企画編集 500円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    名球会入り条件「200勝投手」は絶滅危機…巨人・田中将大でもプロ19年で四苦八苦

  2. 2

    永野芽郁に貼られた「悪女」のレッテル…共演者キラー超えて、今後は“共演NG”続出不可避

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    07年日本S、落合監督とオレが完全試合継続中の山井を八回で降板させた本当の理由(上)

  5. 5

    巨人キャベッジが“舐めプ”から一転…阿部監督ブチギレで襟を正した本当の理由

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    巨人・田中将大が好投しても勝てないワケ…“天敵”がズバリ指摘「全然悪くない。ただ…」

  3. 8

    高市早苗氏が必死のイメチェン!「裏金議員隠し」と「ほんわかメーク」で打倒進次郎氏にメラメラ

  4. 9

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  5. 10

    三角関係報道で蘇った坂口健太郎の"超マメ男"ぶり 永野芽郁を虜…高畑充希の誕生日に手渡した大きな花束