「わたくし大画報」和田誠著/ポプラ社(選者:中川淳一郎)

公開日: 更新日:

「わたくし大画報」和田誠著/ポプラ社

 グラフィックデザイナー・イラストレーターで多数の本の装丁もしてきた和田誠氏。2019年に亡くなったが、同氏による過去エッセーの傑作選が今年3月に発売された。山下洋輔・嵐山光三郎的軽快な文章と、多少の自虐が続くが、つくづく、才能ある人はなんでもできるのだな、と感じ入る一冊だった。

 和田氏のイラストと手書き文字は見るだけで同氏によるもの、と分かる。イラストは基本的には細い線で、目は点2つだけで表現することが多い。それでも同氏によるものだと分かるのだ。

 それと同様に和田氏の文章も一度読むと同氏のものだと分かるようになる。たとえば、1975年にハウス食品が流したラーメンのCMで「私、作る人。僕、食べる人」が「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」の抗議により放送中止となった。ジェンダーの観点から役割を規定するのは問題、という指摘である。和田氏はこれに対してこう述べる。

〈ずいぶん宣伝になったようで、会社は喜んでるんじゃないかしら。しかもかなり頑張ってこのCMを流していたようだが、最近はお目にかからない。とうとうひっこめたか。ぼくが宣伝部だったらいち早く「ボク作る人・ワタシ食べるヒト」というカカア天下版を用意し、交互に流す。それなら文句も出ないだろう〉

 こんな調子で常にひょうひょうとしつつ、社会批評と皮肉とユーモアすべてを兼ね備えた文章なのである。しかも、和田氏といえば星新一氏のショートショートや「マザー・グース」のイラストなどが有名だが、あのタッチの挿絵が頻繁に本書でも出てくる。それも含めて和田ワールド炸裂、となっているのだ。

 和田さんが誰に似ているか、と考えると漫画家の東海林さだお氏が思い浮かぶ。東海林氏は「タンマ君」や「アサッテ君」などの漫画が本業ではあるものの、「丸かじりシリーズ」などのエッセーも「名人」だ。生まれは和田氏が1936年で東海林氏が1937年。この時代のクリエーターは何でもできる人がいたのと、クリエーターも今ほどラクになれる時代ではなかったからレベルが高かったんだな、と実感できる。 

 さらには料理研究家で妻の平野レミ氏が家庭でもいかに天然っぷりを発揮しているかなど、家庭の様子も分かるのでさらにおトクですぞ。それにしてもあの細い線で完璧に似た似顔絵を描けるとは……。畏怖の念を覚える。 ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  2. 2

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か

  5. 5

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  1. 6

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  2. 7

    三山凌輝に「1億円結婚詐欺」疑惑…SKY-HIの対応は? お手本は「純烈」メンバーの不祥事案件

  3. 8

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  4. 9

    佐藤健と「私の夫と結婚して」W主演で小芝風花を心配するSNS…永野芽郁のW不倫騒動で“共演者キラー”ぶり再注目

  5. 10

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意