ご当地ネタが光る地方が舞台の小説特集

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「大阪府警 遠楓ハルカの捜査日報」松嶋智左著

 日本各地の地域ごとに異なる、文化や歴史、人々の暮らし。地元民なら深く納得し、他の都道府県在住の読者には新鮮な光景が楽しめる、地方が舞台の小説をピックアップした。東京が舞台では描くことのできない、多様で豊かな世界観を堪能して欲しい。

  ◇  ◇  ◇

「大阪府警 遠楓ハルカの捜査日報」松嶋智左著

 頭脳明晰の女性刑事が、完全犯罪をもくろむ犯人たちの計画を覆していく痛快警察ミステリー。

「仕事でも、それぐらい面白いことができれば良かったのに」。そう言いながら響子は、恐怖に怯え這いずり回る夫のぶざまな姿を見下ろしていた。道頓堀川沿いに立つマンションの一室が大阪でピン芸人をしている夫・巧の仕事部屋だった。結婚10年、響子は人気女優へとのし上がっていたが、巧は女性問題や大麻所持などのスキャンダルにまみれ、事務所からも最後通牒が申し渡される始末。響子からの離婚の申し出も、売れない女優時代の過ちをネタに脅すありさまだった。

 その日、響子は大阪中央署の一日署長を務め、船で道頓堀川をパレードしていた。そして船が下大和橋に差し掛かったとき、巧がベランダから飛び降りる光景をその場にいた全員が目撃するという事件が起こる。誰もが自殺と疑わない中、強行犯係の遠楓ハルカはなぜか響子を挑発し続けるのだった。

(PHP研究所 968円)


「名古屋駅西喫茶ユトリロ」太田忠司著

「名古屋駅西喫茶ユトリロ」太田忠司著

 第2次世界大戦末期、アメリカ軍の執拗な爆撃を受けた名古屋。戦後、焼け野原となった駅西側には闇市が拡大し、賑わいの一方で犯罪も多発した。現在「駅西」と呼ばれるこの地域には、今でもかつての息吹が残っている。

 そんな駅西に、昭和24年創業の老舗「喫茶ユトリロ」がある。切り盛りするのは2代目の鏡味敦子、正直夫妻。初代の千代は90歳を越えて白内障の手術で入院中で、ひ孫の龍が付き添っていた。

 その夜、千代の寝言で龍は目を覚まし、「…かっぱさん…おどろまゃあ」という謎の言葉を耳にする。退院後、老舗寿司店の名物穴子の切り寿司を頬張りながら、千代にあのときの寝言の意味を尋ねるが、千代は赤面して顔を隠し、黙り込んでしまう。

 河童について調べるうちに、名古屋と曽祖母の知られざる歴史に直面することになる龍。名古屋出身の著者ならではの、名古屋の歴史と名古屋めしを題材とした人気シリーズ最新作だ。

(角川春樹事務所 770円)

「京都哲学の道こころばえの石売る店で」大石直紀著

「京都哲学の道こころばえの石売る店で」大石直紀著

 京都市左京区浄土寺---「哲学の道」近くの坂の途中に、光司の店がある。7年余り前、店主だった伯父が亡くなったのをきっかけに引き継いだが、何かの店だと示すものはガラスの引き戸横に掛けられた「石屋」の看板だけ。味もそっけもない店で、化石や天然石、鉱物などを販売している。

 光司は現在62歳だが、以前は精神科医だった。それが、なぜ石屋になったのか。はす向かいでカフェを営み、近所付き合いのある櫻子も、その理由を聞いたことがなかった。

 ある大雪の日、櫻子の店に若い男性が飛び込んでくる。顔面蒼白でガタガタと震え、やがてぐったりと倒れ込んでしまった。櫻子に助けを求められた光司は、男性を診察するのだが……。

 この地を訪れる訳アリの人々と触れ合う中で、光司もまた自身の過去と向き合うことになる。果たしてなぜ、精神科医でいられなくなったのか。哲学の道の四季の風景と共に、傷ついた心の再生を描く物語。

(光文社 880円)

「希望の海仙河海叙景」熊谷達也著

「希望の海仙河海叙景」熊谷達也著

 架空の街・仙河海市を舞台に、東日本大震災を題材とした連作短編集。しかし描かれるのは震災そのものではない。震災前が舞台の7編と、震災後の3編の計10編で構成され、訪れるはずだった日常の儚さと、失ってもなお希望を捨てない人々の力強さが描かれていく。

 仙河海市では準大手の水産加工会社に勤務する悟志は、妻と小学生の息子の3人暮らし。とくにやりたい仕事もなく、ブラブラしていたところを父親のコネで潜り込んだのが今の会社だ。面白みのない毎日の中で、自分がリストラの対象となっていることを知り焦るが、時すでに遅し。祖父や父のようにマグロ漁船に乗る未来を描く。(「冷蔵家族」)

 小学生の妹と2人で仮設住宅に暮らす高校生の翔平。津波で両親を亡くし、家も流され、バイトに明け暮れる毎日を送っている。しかし、次第に追い詰められていく翔平に、妹はお盆の送り火と迎え火を焚く提案をするのだが……。(「ラッツォクの灯」)

(集英社 924円)

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