著者のコラム一覧
ショーファー佐野作家

ケネディ暗殺の翌年である1965年、アメリカ合衆国テキサス州ダラスに生まれる。早稲田大学理工学部を卒業後、有名総合商社に勤務するも、早々に退職。輸入時計販売業を始める。一期一会を噛みしめながら、一本、一本丹念に販売実績を積み上げてきた。輸入時計を通じて広げた人脈には成り上がり、強者もいれば、化け物もいる。猛者たちとの対峙が己の人生を形作ってきたと考え、本書「高級時計 千夜一夜物語」を書き下ろした。

第11話:衝動的略奪 ~2人の逃走者~

公開日: 更新日:

アイテム:ROLEX 118238A シャンパン彫りコンピューターダイヤル
お客様:丹下宗治 様

  ◇  ◇  ◇

「下の者に、ワシが注文したもんを郵便局に行って取ってきてくれぇ、言うて頼んだら、盗ってきてしもうたんですわぁ」
 と、受話器から粘着質な関西弁がまとわりついてきた。
 一瞬、何を聞かされているのか判断がつきかねた。
 特徴的な声や口調から、電話の主が丹下宗治氏であることはすぐに分かった。
 私は呼吸を整え、
「おっしゃっていることがわかりかねるのですが……どういったことでしょうか?」
 と、切り出した。
「せやから、郵便局に引き取りに行かせたんやけど、そのまま奪って事務所に持ち帰ってきよったんですわ」
 主語も目的語もない丹下氏のもの言いではあるが、私の手のひらはすでに汗ばんでいた。
「代金引換のお支払いはどのようにご対応いただいたのでしょうか?」
 私の質問をあっさり黙殺して、
「ワシは、注文したROLEXが郵便局に届いているから引き取ってきてくれ、そう頼んだだけなんや。ほしたら、こんなことになってしもうたんですわ」
 と、言い回しだけを変え、あくまで責任の所在は自分にはないという内容を繰り返している。
「商品を受け取る際に現金が必要なことを部下の方にお伝えにならなかったのでしょうか?」
「それをな、伝えようとしてる間もなく鉄砲玉のように飛び出していきよったんですわ」
(そんなバカな話があるのか?) 

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