第11話:衝動的略奪 ~2人の逃走者~
それから数日が経ち、郵便局の田丸氏から連絡が入った。
いったん時計が丹下氏の部下の手により郵便局に戻されたという話だ。
田丸氏によると開封した痕跡があるという。
商品すり替えなどの懸念も一瞬よぎったが、送られてきた画像を見る限り、その疑いは限りなく低そうだ。
電話で話した印象からは、丹下氏がそこまでの悪党とも思えない。
しかしながら開封されている以上、丹下氏が時計に触れ、装着した可能性は否めない。
その場合、厳密には中古品扱いとなることも考えられるが、最悪、丹下氏の支払い不履行が発生したとしても現物は手元に残る。
本来、代金引換郵便で出荷した荷物の郵便局における留め置き期間は1週間という規定がある。
今回、私は丹下氏を信じてみようと思った。
田丸氏に、1週間を過ぎても、私が良いというまでは商品を郵便局に留めておいてほしい旨を伝えた。
郵便局の規定よりも自身の保身を優先した田丸氏は当然のごとく私の提案に快諾した。
2週間程度が過ぎた頃、弾んだ口調の田丸氏から連絡が入った。
「商品を引き取りに来られました!」
丹下氏という人物に多少の興味もあり
「どんな方でしたか?」
と田丸氏に尋ねた。
「引き取りに来られたのはご本人ではなく、飲み屋のママ風の女性でした!」
喜々として語る田丸氏に対する小さな苛立ち、丹下氏本人が来なかったことに対する限りなく小さな失望感、事案が落着した安堵、そして丹下氏「らしいな」という複数の感情に包まれながら口をついて出たのは、
「なるほど、そうでしたか。いずれにしても良かったです」
という淡白な言葉だった。
「こちらもホンマにお世話になりました」
(ホンマやで)
これで、田丸氏は定年までの日々を大過なく過ごすことが出来るだろう。
丹下氏の腕には煌びやかなシャンパン彫りコンピューターダイヤルの金無垢デイデイトが巻かれているのだろうか?
結果的に私は2人の「逃走者」の手助けをした、ということになるのかも知れない。
今回の事案から、取引相手をより慎重に吟味しようという教訓を得た。
なお現在も、代金引換郵便の上限取引金額は200万円のままである。ただし、30万円を超える場合には、一般書留、ゆうパックであればセキュリティーサービスの付加が必要となっている。この事件が制度変更に影響を与えた、などと考えるのは、さすがにうがちすぎだろうか。
そしてこの一件は、審美眼ならぬ「審人眼」を鍛錬する機会にもなった。
私の審人眼は性善説を土台としている。
その「性善説」に疑念を抱くような事案が次章で発生することになる。




















