人皮装丁本の過程と成果をまとめたノンフィクション「禁じられた装丁」ミーガン・ローゼンブルーム著 阿部将大訳
「禁じられた装丁」ミーガン・ローゼンブルーム著 阿部将大訳
この世界には、人間の皮膚で装丁された本がある。背筋がゾクッとする話だが、それらの本の外観は、博物館や図書館に並ぶ古書と見分けがつかない。誰が、いつ、なんのために作ったのか。
医学書専門の図書館司書である著者は、まだ学生だった2008年、フィラデルフィアの医学史博物館で初めて人皮装丁本を目にした。それらは19世紀の権威ある医師たちが個人的な稀覯本コレクション用に作ったものだと知ってショックを受ける。解剖台に横たわる死者の皮膚を剥ぎ取って、工芸品に仕立てるなんて!
最初は怖いもの見たさから、著者は「人皮装丁本プロジェクト」を立ち上げ、「ペプチド・マス・フィンガープリンティング(PMF)」という検査方法を実施している化学者たちとともに人皮装丁本の真偽を調べ始める。本作はその過程と成果をまとめたノンフィクション。
調査は骨の折れる作業だった。人皮装丁本とされる書籍を所蔵している博物館や図書館を探し出し、協力をとりつけ、実物を傷つけないように細心の注意を払って検査する。結果はしばしば人の皮ではなく、羊の皮だったりウサギの皮だったりした。それでも、人皮装丁本は確かに実在していた。このプロジェクトによって2020年3月までに、17点の人皮装丁本が確認され、巻末にはそのリストが掲載されている。中には、歴史的調査によって皮膚を剥いだ医師、剥がれた患者の名前と人生が判明したケースもある。
調査の過程で、著者は死者の尊厳について、医師の倫理について、思いを巡らせるようになり、行動範囲を広げていく。食肉にされた動物の皮をなめす工場を訪ね、動物の苦しみに鈍感な人間の傲慢を思う。医学部の解剖実習を見学し、19世紀の医師たちに欠けていた倫理観を感じとる。そして著者自身、死後の献体を考えるまでになる。
人皮装丁本を入り口に、近代医学が抱えるタブーに切り込んだ意欲作。好奇心に満ちた著者とともに、ちょっと怖くて謎めいた世界を旅した気分になる。
(原書房 3520円)



















