Bookstore&Gallery出発点(湯島)「本を接点に人が集まり、新しい本やつながりを生む場所にしたいんですね」
湯島の清水坂に、「名作と迷作、あります」と書いた青いのぼりが揺れている。古いビルの2階にある、小さな本屋さんだ。
入ると、まず右手に、実用本「春夏秋冬ねこほぐし」から吉本隆明「なぜ、猫とつきあうのか」まで猫本が50冊ほどずらり。
「湯島は猫の町。今年も9月16日から『ねこまつり』が始まり、猫好きの人たちで賑わいますので」
と店主・廣岡一昭さん。「へ? そうなんだ」ではあるが、「事務所込み7.2坪」の店内の棚を巡っていくと、新刊、古本、ZINEが1000冊くらい。「西高東低マンション」「一角通り商店街のこと」が積まれ、一方でありがたいことに拙著「旅情酒場をゆく」も。めっぽう多いのが酒場、下町、色街、アウトロー、西成、山谷に関する本だと気づく。
その一冊が、「人生と道草 第2号 ドヤ暮らし1週間──山谷とともに」。手にした私に、廣岡さんから「2017年に1週間、山谷のドヤに泊まって書いたんです」と一人称の言葉が。実は執筆も発行も廣岡さんが手がけた本だったのだ。
見えないものにこそ存在する本質を常に意識
店の奥の事務所は、ひとり出版社「旅と思索社」。「二十世紀酒場」「カウボーイ・サマー」など他の刊行本からも、社名の「旅」が “人生の旅”を指すと察せられる。
「タクシー運転手などをしながら、25歳で取次のグループ会社に入り、業界誌や出版社でも働いてきて……」。全てを辞めて、アメリカ横断の旅に出た。戻って2014年に、神田のシェアオフィスで「旅と思索社」を立ち上げ、20年にここへ移転し、本屋も開いた──との経緯。
〈見えないものにこそ存在する本質を常に意識します〉
壁に貼られた廣岡さんの“思い”を見て、背を正さなきゃと思うのは、私だけじゃないはず。
貸し棚が並ぶ箇所もある。大衆演劇やストリップの本が固まる棚、西村賢太、あるいは武田百合子特集のような棚、考現学を中心に据えた棚……。
「本を接点に人が集まり、新しい本やつながりを生む場所にしたいんですね」
廣岡さん自身が店に出るのは木曜と金曜だけ(他の日は知人や妻が店番)。夜間、企業の送迎バスの運転をしているからだ。物流倉庫へ向かう外国人労働者ら昼の出版界では見えにくい社会の姿が見えてくるという。体を張ったそうした視野が本作りと本屋の選書につながっている、と見た。
◆文京区湯島2-5-6 清水ビル2階/℡03-4400-8646/地下鉄丸ノ内線御茶ノ水駅1、2番出口から徒歩8分、JR中央線御茶ノ水駅お茶の水橋口から徒歩9分/水曜と金曜午後1~7時、木曜午後3~7時、土曜午後1~6時、日・月・火曜休み
ウチの推し本
「野宿に生きる、人と動物」なかのまきこ著
「著者は獣医師で、山谷の人たちに向けてのボランティア『医療相談会』に加わり、野宿者が飼っている犬や猫を診たんです。そこから、どんどん山谷の世界に引き込まれていった。この本は、以前勤めていた出版社で出し、僕は営業で関わりました。著者を通して、山谷の支援団体『あじいる』とつながるようになり、僕自身も山谷に通うようになった。全てのきっかけになった一冊です」
(駒草出版)
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