「戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない」赤根智子著/文春新書(選者:稲垣えみ子)

公開日: 更新日:

米国の横暴に日本は「希望の灯り」を消してはいけない

「戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない」赤根智子著

 恥ずかしながら国際刑事裁判所(ICC)というものが何かをよく知らぬまま、プーチンやネタニヤフに逮捕状を出したという記事を見て、そんな黄門様のような正義がまだこの世にあったかと多少スッとし、だが無論それで何かが変わるほど世の中は甘くなく、そうこうするうちトランプ政権がICC所長に制裁というニュースとともに、所長は日本人女性(私と同じ!)と認識。にわかに興味を持ち本書を手に入れようとしたら、似たような人が大勢いたらしく軒並み売り切れ。定価を超える値段で古本を手に入れ、ようやくこの記事に間に合わせることができた。

 検事出身の実務家らしく内容は実にニュートラル。ICCはどんな経緯でなぜできたのか、どのような仕組みで「戦争犯罪」を捜査し判決に至るのか、そもそも戦争犯罪とは何か。もしICCが潰れたら世界にどんな影響があるのか。専門家にありがちな持って回った表現も専門用語の羅列も一切なく、平易に親切に、しかし正確に書かれている。野心もケレン味もない誠実な方なのだろう。それだけで何かホッとするし、もちろん勉強になる。

 私が新たに学んだことは大きく2つ。

 1つは「法の支配」について。我が国の政治家が外交において題目のように口にするのでうさんくさく思っていたが、それは全くの了見違いだった。法の支配の対極は「力の支配」。力のあるものが好き勝手できる世界だ。対して、時の権力と関係なく皆で決めた共通ルールで物事を律するのが法の支配。大国の横暴が止まらぬ現代において題目どころかド根性を据えて守らねばならぬものだろう。そして現実に、日本は世界最大のICCへの資金拠出国と知る。赤根氏が所長に選ばれたのもこのような日本の「法の支配」を重視する姿勢と無縁ではないと氏は言う。日本、案外やることはやってるのだ。

 もう1つは、アメリカのICCへの制裁が非常に深刻な結果を生む可能性が高いことだ。制裁の範囲はいかようにも広げられ、場合によってはICCが潰されかねない。そうなれば力の支配を誰が止めるのか。今は重大な正念場なのだ。日本、今こそアメリカに働きかけなくてどうする。

「私たちの活動には、戦争の惨禍などに苦しむ世界中の被害者たちの希望が託されていることを忘れないでほしい。この人たちの希望の灯りを消してはならないのです」

 重く、真摯な一言である。 ★★★

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