アメリカ国籍の写真家が撮影した66年前のNY「KIJIMA TAKASHI, NEWYORK, 1960」杵島隆写真
「KIJIMA TAKASHI, NEWYORK, 1960」杵島隆写真
2011年に亡くなった写真家が、1960年に訪れたニューヨークで撮影した作品を編んだ写真集。
当時、氏は39歳。制作に携わったアメリカの雑誌に掲載された企業広告が評価され、現地のアートディレクターズクラブに招かれての渡米だった。
ページを開けば、画面いっぱいに笑顔がはじける3人の少女たちの写真が飛び込んでくる(一部表紙)。
続いて、街を歩くビジネスウーマンや海兵隊員、そして摩天楼と呼ばれる超高層ビル群など、粒子の粗いざらりとした画面の白黒作品が当時のニューヨークの空気を伝える。
ほかにも、蝶ネクタイに上着、そしてそのおしゃれとは不釣り合いにおどけた顔でカメラに納まる黒人の少年や、カフェで物憂げな表情でたばこをくゆらす若い女性など、街角スナップ風の写真が続く。
それらの作品からは、初めての土地を訪れた高揚感は伝わってこない。レンズが向けられるのはニューヨークという街の日常だ。
それは、氏がアメリカ国籍を持っていたことと決して無関係ではないだろう。1920年にアメリカのカリフォルニア州で生まれ、アメリカ国籍を持つ氏だが、「排日移民法」の影響で、4歳で来日して母親の実家がある鳥取で育ったという。
中学生のときに、英語教師から「おまえはアメリカ人だから」と言われ、国籍について悩みはじめ、20歳のときに戦争がはじまると、自身の米国籍を恐れる一方で、激しい民族コンプレックスに陥ったそうだ。
そして、戦時下、海軍飛行専修予備学生となり特攻隊に志願するが突撃の待機中に終戦を迎える。
終戦の日、氏がカメラを向けたのは、夕暮れの路上で敗戦の怒りをにじませながら、「日の丸」や「沈船」を落書きしていた子どもたちだった。
本書の編集を担当した森岡督行氏は、そうしたエピソードを通じて、ニューヨークでも子どもにレンズを向けているのは「子どもという被写体を通してその時代をあぶりだそうという試みが感じられる」という。
大統領選(ケネディが勝利した)の候補者を選ぶ予備選挙のポスターが掲げられた街角や、テレビのデモンストレーションと思われるイベントに参加する家族、街角で談笑する黒人の男たちなど街角のスナップに交じって、街路で遊ぶ子どもたちや、おもちゃ屋のショーウインドーにくぎ付けになっている少女、ハトを追いかける幼女とそれを見守る母親らしき女性などの写真が並ぶ。
これらの写真に、著者がニューヨークで肌で感じた「黒人と白人は平等であり、女性は男性と同等の能力と権利があり、若者には過去の因習にとらわれない自由があると。そして、それが子どもの姿の彼方に投影されている」と、森岡氏は語る。
ビルの廃虚など、街の荒れた一面も見せ、ページを開けば、タイムカプセルを開けたように、66年前のニューヨークが読者の眼前に広がる。
(テキサスブックセラーズ 4950円)



















