元ストリッパーが主人公「裸の華」を上梓 桜木柴乃氏に聞く

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 これまで北海道を舞台に男女の悲哀や、不器用な人々の生きざまを描いてきた桜木紫乃氏の最新刊「裸の華」(集英社 1500円+税)は、表現者たちの生きざまを描く物語。すすきののダンスシアターを舞台に、芸と気持ちをつなぐ人々を編む、極上の長編小説だ。

「いつかストリッパーの物語を書きたいと思っていました。デビュー前から十数年ストリップを見続けてきて、そこで感じた踊る女の心意気と言いますか、踊り子さんのひとつの生き方を描いたのが今作です」

 北海道を舞台に、不器用ながら己の道を生きる人々の姿を静謐な筆で描く著者の最新作は、元ストリッパーが主人公だ。

 物語は主人公・ノリカが札幌に着いたところから幕を開ける。1年前に骨折し、舞台で元のように踊れなくなったノリカは札幌に戻り、すすきのでダンスシアターを開くことを決意する。そこにまったくタイプの異なる2人の若い女性ダンサーが応募してくる。

「私が初めてストリップを見たのが札幌道頓堀劇場なんですが、そこの経営者って女性なんですよ。地元の新聞に彼女の特集記事が出ていて、ただ華やかに踊っているだけではないことを知り、引かれました。まだ本を出していなかったけど会いに行ったら、『桜木さん、私のこと焼くなり煮るなり好きに書いてくださって結構です。表現者として出来る限り協力します』と言ってくれたんです。ああ、ストリッパーは表現者であり、彼女たちの裸は表現の道具なんだな、と思いました。実際に見たストリップは、本当にきれいでした。きれいに見せるためにつらいポーズを取るんです。女の体には生き方が出るんですよね」

 本作で描かれるノリカには、著者が出会ったストリッパーたちが少しずつ投影されている。きっぷがよく、踊ることが最優先のストイックな生活。男っ気がなく、しかし舞台に上がれば包容するようなまなざし……。ノリカのケガのエピソードは、大けがをした後、半年で舞台に戻り、業界の伝説といわれる実在の踊り子から拝借した。

 ノリカの店でやるダンスは脱がない踊りだ。にもかかわらず、愛くるしい笑顔で楽しげに踊る瑞穂と、無表情だが突出した技量を持つみのりが作り出す卓越したダンスショーはたちまち評判になり、店も安定していく。

 ノリカから瑞穂とみのりに伝えられる踊り子としての矜持。それを体に吸収していく2人。3人を取り巻く幸せな時間は、突如吹いた、新しい風によって終わりを迎える。

「ノリカは昔の客に再会し、また踊りたいと思うようになる一方で、みのりのダンサーとしての天賦の才能を目の当たりにし、傷つくんですね。だけどノリカはそれを諦めの言い訳にしませんでした。みのりの存在を通して自分自身の踊りに気付き、それぞれに合った場所で踊ることの大切さを知るんです。みのりをもっと大きな舞台で踊らせることがノリカの使命になったとき、彼女はみのりのためにも踊り続けていく決心をする。詰まるところ諦めるのも立ち上がるのも自分なんです。ましてや好きでやっていることって、人のせいにできないものですから」

 ノリカの店は、まるで偶然に出会い、すれ違っていく交差点のようだ。再起をかけた人、過去を清算する人など、さまざまな人生をクロスさせながら物語は進んでいく。

「出会いと別れが交差するすすきのの景色が書かせてくれた物語という気がします。考えてみればこれって、男女の出会いと別れと切なさを20分で表現するストリップの踊りそのもの。だからストリッパーは一編の小説でもあるんです。諦めても人はやり直せる、また歩いていけるんだなと感じてもらえたらうれしいですね」

 昭和歌謡が流れるショーの描写やストリッパーの舞台裏など、臨場感を持って再現されているのも読みどころ。

 3人の踊り子たちが、ひと時の別世界を案内する極上エンタメ。

▽さくらぎ・しの 1965年、北海道生まれ。2013年「ラブレス」で島清恋愛文学賞を受賞。同年、「ホテルローヤル」で第149回直木賞受賞。著書に映画化された「起終点駅」「それを愛とは呼ばず」「ブルース」など多数。

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