著者のコラム一覧
坂爪真吾

「新しい性の公共」を目指し、重度身体障害者への射精介助サービスや各種討論会を開く一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。著書に「男子の貞操」(ちくま新書)、「はじめての不倫学」(光文社新書)など。

表面的な「正義」や「道徳」を超えた性愛の享楽

公開日: 更新日:

「どうすれば愛しあえるの」宮台真司、二村ヒトシ著/KKベストセラーズ 1600円+税

 テレビをつければワイドショーの不倫報道ラッシュ。スマホを開けばタイムライン上ではセクハラ告発の嵐。表面的な「正義」や「道徳」を振りかざして他人の恋愛やセックスを裁きたがる人たちがあふれ、被害や搾取という一面的な視点でしか性を語れない社会。

 そんな社会にあらがうかのように、著者たちは本書で表面的な「正義」や「道徳」を超えた性愛を享受するための方法を提唱する。

 私たちは、社会が良くなれば人は性的に幸せになれると思っている。経済格差や男女格差がなくなり、LGBTや障害者などのマイノリティーへの合理的配慮が徹底されれば、すべての人が平等かつ傷つかずに恋愛やセックスを楽しむことができるに違いない……。

 こうした考えに対して、著者たちは明確に「NO」を突きつける。性愛は社会の枠を超えるものであり、枠を超えることによって得られる享楽こそが性愛の本質である、と。

 そこには「強制や差別が自由を生む」という逆説がある。体育会系の上下関係や土着的な習俗など、本人の自由にはならない不条理なもの、社会的・道徳的に悪とみなされているものこそが、私たちの性を豊かにするために必要になる。

 しかし、今の時代はそういったものを漂白し、排除してしまった。その結果として、恋愛やセックスから退却する若者たち、貧しい性生活しか送れないセックスレスの大人たちが増えてしまった。

 コストパフォーマンスに基づいた損得勘定で性愛を語ることから卒業し、表面的な正義や道徳の向こう側、社会の外側にあるものに心と体を開くべし、と著者らは主張する。

 著者たちの甘言(?)にのるか否かは読者次第だが、家庭や職場で知らず知らずのうちに誰かを性的に抑圧・支配してしまったり、人生の折り返し地点を過ぎてなお他者からの承認を得るためのセックスを求めて右往左往しがちな中年世代にも刺さる一冊と言えるだろう。

【連載】下半身現代社会学考

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言