野地秩嘉
著者のコラム一覧
野地秩嘉ノンフィクション作家

1957年、東京生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務などを経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュや食、芸術、文化など幅広い分野で執筆。著書に「サービスの達人たち」「サービスの天才たち」『キャンティ物語』「ビートルズを呼んだ男」などがある。「TOKYOオリンピック物語」でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

<第9回>映画に出るか出ないかは「ホン」のひと言で決めた

公開日: 更新日:

【居酒屋兆治 1983年・田中プロ】

 この映画がヒットした後、全国に「居酒屋兆治」、もしくは「兆治」と名の付いたモツ焼き屋ができた。そのうちのひとつ、三軒茶屋にある「兆治」をのぞいてみると、店内の壁には高倉健が出た映画のポスターが貼ってあり、棚にはDVDがそろっている。そして、スキンヘッドの主人は映画の主人公のように寡黙に仕事をしている。また、本作を監督した降旗康男監督によると、高倉健と一緒に中国へ行った時、「北京に日本料理店『兆治』がある。一緒に行かないか」と映画関係者から誘われたことがあったという。中国にも高倉健ファン、そして、この映画のファンがいるのだ。

 原作は直木賞作家の山口瞳。野球のヒーローだった男が脱サラして、モツ焼き屋を開店。かつての恋人(大原麗子)が資産家の妻になり、その後、幸せではないことを知り、主人公の心は乱れる。しかしながら、結局、主人公は黙々と働く女房(加藤登紀子)とモツ焼き屋を続ける。

 高倉健が無言でモツに串を打つ姿が切ない。かっこいい健さんは出てこないけれど、懸命に生きる庶民の姿がそこにある。高倉健は映画に出る基準として「拘束時間の短さとギャラの額」を挙げる。だが、ほんとうはその2つよりも大切にしている基準がある。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗