著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

山崎努と樹木希林が夫婦役「モリのいる場所」ヒットの理由

公開日: 更新日:

 映画館にスッ飛んでいった。筆者が慌てて劇場に足を運ぶときは、意外なヒット作が生まれている場合が多い。今回もそうだ。山崎努と樹木希林が夫婦を演じた「モリのいる場所」である。平日昼の12時台の回、シネスイッチ銀座が満席であった。年配の女性が大半を占める。

 97歳で亡くなった伝説の画家・熊谷守一の最晩年の1日を描く。熊谷は、30年もの間、自分の家から出ていないという設定だ。彼は庭にあるモノや生息する生き物たちに目を凝らす。アリの最初の足の出方を指摘するくだりなど尋常な観察眼ではない。そのこだわりは絵を描くためというより、彼の生き方に強く関わりがあるように感じた。

 すでに巨匠なので、絵画を所望する人、看板に彼の字体で旅館の名前を書いてもらおうとする人などで家はごった返す。妻役の樹木がまた、絶妙な間合いで熊谷と入り乱れる人たちの間をとりもつ。ユーモアも存分にあるので、見終わって体全体に力の泉が湧いてくる清涼剤を飲んだごときだった。

 多くの年配女性を集客しているのは、夫婦のひょうひょうとした日常と、なにものにも左右されない老後の生き方が感じられるからだろう。熊谷は選ばれた人間だが、周囲に左右されない生活術は選ばれし特権者のみの“持ち物”ではない。

 全国74スクリーンながら、公開9日間で興収1億円を超えた。配給会社は最終で3億円は突破できるとした。イメージがつかみづらいタイトル、かつ地味な中身ではあるが、いまの時代に強く突き刺さる作品だ。もちろん、男性諸氏も楽しめる。女性たちは皆、にんまりした面持ちで映画館を後にしていた。

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