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山田勝仁演劇ジャーナリスト

松坂桃李が非情な殺人マシンの複雑な内面を浮き彫りにした

公開日: 更新日:

 2部は背丈ほどもある草が生い茂る湖畔が舞台。乗用車のトランクから手首を縛られた女(趣里)が引きおろされる。彼女はヴィクターの幼なじみで恋心を抱いたこともある。処刑理由は瀕死の英国軍兵士に水を飲ませたというささいなこと。女は必死に命乞いをするが……。

 3部の舞台は母(高橋恵子)が入院する老人施設。窓から忍び込んだヴィクターは半分ボケた母と対面する。目の前の息子を夫や兄弟と混同する母。やがて、母が告げたある事実にヴィクターはショックを受け……。

 1部での暴力と狂気から2部、3部での内省へ。静と動を往還する松坂。暴力でしか自己の存在を確認できないヴィクターの姿はいつの時代にも共通する、社会に鬱屈した感情を抱く青年の合わせ鏡といえる。その悲喜劇性を体現した松坂の演技の自在性に目を見張った。

 恐怖にさらされながらも凜とした姿勢を崩さない女を演じた趣里、認知症ながら気品を失わず息子と対峙する母役の高橋恵子。2人の存在感がまた圧倒的。7月29日まで、東京・世田谷パブリックシアター。 ★★★★

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