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井筒和幸映画監督

1952年12月13日、奈良県出身。県立奈良高校在学中から映画製作を始める。75年にピンク映画で監督デビューを果たし、「岸和田少年愚連隊」(96年)と「パッチギ!」(04年)では「ブルーリボン最優秀作品賞」を受賞。歯に衣着せぬ物言いがバラエティ番組でも人気を博し、現在は週刊誌やラジオでご意見番としても活躍中。

首から「御札」ばりに入館証をぶら下げるサラリーマンよ

公開日: 更新日:

 人ごみの中を歩くのが嫌なので、タクシーに逃げ込んだけど、それでも疎ましい光景が目に入った。昼休みにビルから出てきたサラリーマンたちが何のつもりか、「社員入館証」とやらを青や赤色の紐で首からぶら下げたまま歩いている姿だ。誰もが後生大事な「お守り」か、巡礼参りの「御札(おふだ)」みたいに胸に吊るしている。ここは外だ。社内じゃないぞ。

 一昔前なら携帯電話も首から二重にぶら下げていた。「ボクは働いている。遊んでブラブラしてる無職者じゃない」と自分に言い聞かせているようにも見えた。オフィスの出入りに要るし、その御札がなかったら便所にも戻れないのだろう。「手前は日夜ここで奉公させてもらってますので文句は言いません」とつぶやきそうな就職氷河期組のロストジェネレーション世代の姿がそれだった。

 御札をぶら下げたままのサラリーマンたちと、自分の財布だけを手に持ってランチを食べに行くOL集団〈外国の街角で見ることはない〉がぞろぞろ横断歩道を渡ると、都営バスが止まった。そのボディー全面には進学塾の広告が「今期の東大入学率ナンバーワン人生の方程式を教えます」と挑発していた。人生の方程式だと? どこでどうなるか分からないから人生だろうが。

 御札サラリーマンと財布OLにこそ聞いてみたくなった。アンタたちは方程式どおり生きてきたのかと。新宿の街も人も生気がなかった。

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