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大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

座席収容率「100%で飲食なし」「50%で飲食可」どっち?

公開日: 更新日:

 全国の観光地が賑わいを取り戻した4連休のシルバーウィークだったが、映画界は直前に混乱せざるを得ない事態に直面した。政府や関係省庁による映画館のチケット制限販売の緩和の方針が揺れ動いたからだ。

 全国の映画館は5月下旬から順次再開したが、新型コロナウイルス感染防止のため、座席数を50%以下に間引きしチケット販売を行ってきた。それが、9月19日からのイベントなどの観客制限緩和措置に伴い、映画館も一気に100%までのチケット販売が可能になるかに見えた。しかし、そうはならなかった。政府、関係省庁の方針が一定せず、映画界は振り回されたのだ。

 映画館の関係団体である全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)は同14日、座席100%までのチケット販売を可能とする指示を加盟する興行各社に通達した。この時点で大手のTOHOシネマズやイオンシネマなどを除く興行会社は、19日から各シネコンで全席販売を行えるように動き出し、各作品上映の3日前あたりから座席予約が可能なように準備を始めたのである。

■今年最大クラスの話題作「TENET」に期待

 ちょうどタイミング良く、今年最大クラスの話題作である米映画の「TENET テネット」が、18日から公開の運びでもあった。邦画の大ヒット作は何本か登場しているものの、依然として厳しい興行状況が続いている。座席50%以下のチケット販売は、その大きなネックになっていたため、各興行会社は全席販売可能に加え、「インセプション」などで実績のあるクリストファー・ノーラン監督の新作公開に大きな期待をかけた。

二者択一を迫られる映画館

 ところが数日後、厚労省からある通達が全興連側にあった。座席50%を超えて販売する場合は、飲食を控えるようにとの指示である。これが混乱の原因となり、映画館側は二者択一を迫られた。「100%以下の販売で飲食なし」か「50%以下の販売で飲食可能」か。その後、飲食のうち飲み物のみが持ち込み可能になったが、各興行会社が対応に追われたことに変わりなかった。この時点では飲食に関する制限を設けず、全席対応で9月19日のチケットを販売しているシネコンもあった。実のところ、当初の方針からの変更によるこの二者択一は、興行側にとって売り上げを左右しかねない重要な選択だったのである。

 理由の一つとして、映画館にとって飲食販売は非常に大切な収入源であることが挙げられる。シネコンでは売り上げ全体(興収含む)の約20%がコンセッション(売店)によるものだという。全席対応にして飲食の売り上げが減少する場合と、50%以下で飲食を可能にする場合、どちらが映画館にとって全体の売り上げ増につながるか。この判断はなかなかに難しい。

 上映作品自体の興行力も影響する。観客側からすれば、映画館での映画鑑賞は飲食とともにあるという考え方もあろう。映画を見ながらマスクを外しての飲食に不安を覚える人もいることだろう。コロナ禍での営業再開以降、50%以下だから安心して映画館に行くことができたと感じていた人も結構多いと思われる。

 換気は十分でマスク着用、会話もない映画館だとはいえ、隣に人がいることに不安感を覚える観客も当然いるということだ。逆に「TENET」クラスの作品であれば、座席が満席でも大丈夫という人もいるだろう。まさに人それぞれというわけだが、当分の間は興行会社あるいは映画館ごとで対応が違う状態が続くと見ていい。どこを選ぶかは観客の自由だ。

 とにかく混乱のシルバーウィークは、揺れ動いた緩和の方針に振り回された結果である。秋から冬に向かって感染の先行きは今のところ不透明だ。全国的な映画館の休業があり、再開の見通しが立ったものの、限定的な興行を強いられ、変則的な興行の形が続く。もちろん、以前に戻れないのは映画界だけの話ではない。コロナ対策を最優先するとした新政権だが、前政権の継承のまま、その対策はいまだ手付かずである。ミニシアターの現状には触れなかったが、映画界は今回のケースを一つの教訓にもっとさまざまな声をあげていいのではないか。

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