著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

「いのちの停車場」公開は弔い合戦? 映連“抗議”の行方は

公開日: 更新日:

 映画界が、怒りをにじませる様々な声明の発信を続けている。映画館の団体である全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)に続き、邦画大手4社で構成する映連(日本映画製作者連盟)は24日、6月1日からの「映画館の再開」の要望と併せて、休業要請などを行う場合は「映画館」を不平等に取り扱うことのないよう求めた。

 行政に対して、ここまで突っ込んだ声明文は異例である。大きな危機感を持ったものと考える。5月12日からの緊急事態宣言の延長に伴い、東京都と大阪府などの自治体が「映画館」(大規模施設の主にシネコン)を対象に休業要請を継続しているからである。ここに来て、どうやら緊急事態宣言の6月1日からの延長が決まりそうだ。もしそうなった場合、これまでと同じように休業要請はなされるのか。仮に緩和されるのであれば現状とどう事情が違い、その理由は何なのか。まさに、説明責任が求められる。

■映画産業は「興行」「配給」「製作」が三位一体

 今回、映連がとくに強調したのは、映画産業の在り方そのものだ。映画産業は「興行」「配給」「製作」が三位一体であり、映画館の休業やそれに伴う新作の公開延期は、興行=映画館のみならず、配給や製作にも大きなダメージを与える。それは作品の製作延期、中止にも及び、製作に携わるフリーランスのスタッフや関係者たちの仕事、雇用にも影響が出るというわけである。

「休業要請は映画館だけの問題ではない」と、筆者は以前から指摘してきたが、邦画大手4社の社長、代表取締役が連名で声明文を出したことが重要だ。シネコン、ミニシアターは観客と接する映画の最前線からの発信を以前から行っていた。それに配給、製作にかかわる邦画大手が加わったことは非常に大きな意味を持つ。監督や俳優たちも、休業に反対の意向を示している。

 本稿ではその声明文を引き出すひとつの要因となった新作の公開延期、それとともに、あえてこの時期に公開に踏み切った作品の事情についても考えてみたい。

 まず前者でいえば、全興連は4月25日からの緊急事態宣言発令の前には、映画館の座席数制限(座席チケット販売を半分程度など)の提案を政府にしていた。結果、却下されたわけだが、もし映画館が休業ではなく、座席数制限に踏みとどまっていたなら新作の公開はどうなっていたか。少なくとも延期に踏み切る作品数は減った可能性がある。映画館に作品を提供する配給会社からすれば、休業と座席数制限では、その収益がまるで違うからである。休業が避けられ、ある程度の上映の機会が残っていたなら冒頭の声明文はなかったかもしれない。全興連のさきの意見をしっかりと聞くべきであったのではないか。

「戦時中でも映画館は休業しなかった」

 ところで、先週5月21日から、吉永小百合主演の「いのちの停車場」が予定どおり公開された。公開に踏み切った背景には同作品の製作者にして、昨年急逝した東映グループ会長の岡田裕介氏(5月27日が誕生日)の弔い合戦の趣がある気がしてならなかった。同社社員からはいろいろな意見があったと聞くが、少なくとも筆者はそう思った。東映は延期するわけにはいかないのだ。

 岡田会長には持論があった。関係者から聞いた話だが、全国に映画館が休業を強いられた昨年、「戦時中でも、映画館は休業しなかった」が口癖だったという。「映画」の火を消してはいけない。流れを途絶えさせてはいけない。そんな信念の持ち主であることを踏まえ、「いのちの停車場」の公開はその遺志を継いだようにみえた。吉永小百合も、きっと岡田会長と同じ考えを持っていたのではないだろうか。大変なリスクを冒してまで公開する意味には、計り知れないものがあるのだと思う。

 新作の延期、公開に関しては製作会社、配給会社にすれば、様々な姿勢、考え方がある。どちらがいい悪いと無責任にいえることではない。ただ再び冒頭に戻れば、何の説得力ある説明もなくおとなしく休業、延期をしてきたことに対して、映画界全体から怒りが噴出しているのは至極当然のことであろう。休業要請の大きな目的である「人流」が減らない状況が続くなか、休業要請は全く理不尽であることが、日を追って明白になってきた。

 映画界は、もはや黙っているわけにはいかない局面にまで追い詰められている。さあ、東京都はどのような対応、はたまた説明責任を果たすのか。じっくりと見届けたい。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  2. 2

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 3

    福山雅治&稲葉浩志の“新ラブソング”がクリスマス定番曲に殴り込み! 名曲「クリスマス・イブ」などに迫るか

  4. 4

    国分太一の先行きはさらに険しくなった…「答え合わせ」連呼会見後、STARTO社がTOKIOとの年内契約終了発表

  5. 5

    長嶋茂雄引退の丸1年後、「日本一有名な10文字」が湘南で誕生した

  1. 6

    南原清隆「ヒルナンデス」終了報道で心配される“失業危機”…内村光良との不仲説の真相は?

  2. 7

    100均のブロッコリーキーチャームが完売 「ラウール売れ」の愛らしさと審美眼

  3. 8

    文春が報じた中居正広「性暴力」の全貌…守秘義務の情報がなぜこうも都合よく漏れるのか?

  4. 9

    AKB48が紅白で復活!“神7”不動人気の裏で気になる「まゆゆ」の行方…体調は回復したのか?

  5. 10

    年末年始はウッチャンナンチャンのかつての人気番組が放送…“復活特番”はどんなタイミングで決まるの?

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  3. 3

    「おこめ券」迫られる軌道修正…自治体首長から強烈批判、鈴木農相の地元山形も「NO」突き付け

  4. 4

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  5. 5

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  1. 6

    12月でも被害・出没続々…クマが冬眠できない事情と、する必要がなくなった理由

  2. 7

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  4. 9

    黄川田地方創生相が高市政権の“弱点”に急浮上…予算委でグダグダ答弁連発、突如ニヤつく超KYぶり

  5. 10

    2025年のヒロイン今田美桜&河合優実の「あんぱん」人気コンビに暗雲…来年の活躍危惧の見通しも