著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<63>中上健次さんとの仕事で韓国へ ソウルの路地に捕まっちゃった

公開日: 更新日:

 これまで韓国には7、8回行ってるかな。最初に行ったのが『物語ソウル』の仕事で、中上健次さんと一緒に行ったんだよ。中上さんて、書けないっつうんじゃなくて書くのが遅いんだよね。だから、待ちきれずに遊びがてらロケハンと称してソウルに行ったの。もう韓国に遊びに行こう!ってね。先乗りしたんだよ(小説家・中上健次は1976年『岬』で第74回芥川賞を受賞、戦後生まれ初の芥川賞作家となった。1992年、腎臓がんの悪化により46歳で早逝。共著『物語ソウル』は1984年パルコ出版より刊行)。

 初めて韓国に行くんだから、やっぱり釜山から入るのが礼儀だとかなんとか言って、下関からフェリーに乗って行ったんだよ。そうか、1982年かぁ~。下関から釜山に着いてもさ、すぐには船から降ろしてもらえないんだ。夜が明けるのを待ってね。湾の中で船が停泊したまま3時間ぐらい待たされて、ようやく降ろされるんだよ。一緒に船に乗ってた「在日」の人たち、最初は日本語で話していたのに、釜山に近づくにつれてどんどんどんどん韓国語になっていくんだ。それまでオレたちと日本語で話していたのが、韓国語になっていったのが印象に残ってるね。

 それと、当時はボディチェックがきつくてね。日本人には緩いのよ。ところが「在日」の人たちには厳しくて、とくに女の人は細かく調べられてたね。朝早く釜山に着いて、漁港だから朝市があるのよ。だから最初に撮ったのは、その朝市かな。朝市に仕入れにくるおばさんたち、だったと思うな、元気なオモニたちだね。

陽子の通夜に都はるみの「好きになった人」を唄ってくれた

 中上さんが「なかなか書けない」って言ってたんだけど、できたというんで一緒にソウルに行ったんだよ(1984年)。1週間以上いたんじゃないかなぁ。中上さんが、文学、韓国、ソウルは路地からはじまるんだって言ってたけど、それは韓国に限らず、どこでもそうなんだよね。で、文学は路地からだっていうんで、雪解けに雨が降ってる韓国の路地を中上さんが案内するって言って案内されて、そこで捕まっちゃったね、ソウルの路地に。

 オレにとっておもしろいのは、路地とか道なんだよ。ど~しても道っつうか路地に入りたいとか、道を撮りたいとか思うわけ。路地を歩いてると、両側から湿度とか体温とかが伝わってくる、そういうのが路地だよね。そういうとこが好きなんだよね。そうかぁ、中上さんとソウルの路地を歩いてから37年が経つんだねぇ……。中上さんは陽子の通夜に、都はるみの「好きになった人」を唄ってくれたんだよ……。

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  2. 2

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 3

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  4. 4

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  5. 5

    長嶋一茂は“バカ息子落書き騒動”を自虐ネタに解禁も…江角マキコはいま何を? 第一線復帰は?

  1. 6

    嵐ラストで「500億円ボロ儲け」でも“びた一文払われない”性被害者も…藤島ジュリー景子氏に問われる責任問題

  2. 7

    独立に成功した「新しい地図」3人を待つ課題…“事務所を出ない”理由を明かした木村拓哉の選択

  3. 8

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  4. 9

    "お騒がせ元女優"江角マキコさんが長女とTikTokに登場 20歳のタイミングは芸能界デビューの布石か

  5. 10

    長女Cocomi"突然の結婚宣言"で…木村拓哉と工藤静香の夫婦関係がギクシャクし始めた

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    横綱・大の里まさかの千秋楽負傷休場に角界から非難の嵐…八角理事長は「遺憾」、舞の海氏も「私なら出場」

  3. 3

    2026年大学入試はどうなる? 注目は公立の長野大と福井県立大、私立は立教大学環境学部

  4. 4

    東山紀之「芸能界復帰」へカウントダウン着々…近影ショットを布石に、スマイル社社長業務の終了発表か

  5. 5

    「総理に失礼だ!」と小池都知事が大炎上…高市首相“45度お辞儀”に“5度の会釈”で対応したワケ

  1. 6

    大関取り安青錦の出世街道に立ちはだかる「体重のカベ」…幕内の平均体重より-10kg

  2. 7

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  3. 8

    義ノ富士が速攻相撲で横綱・大の里から金星! 学生相撲時代のライバルに送った痛烈メッセージ

  4. 9

    同じマンションで生活を…海老蔵&米倉涼子に復縁の可能性

  5. 10

    独立に成功した「新しい地図」3人を待つ課題…“事務所を出ない”理由を明かした木村拓哉の選択