著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<71>オレを写真家にしてくれたのは陽子 四六時中、彼女を撮り続けた

公開日: 更新日:

 ロッキングチェアーに座ってビールを飲む陽子。ふたりだけの幸福な時間。こういう写真がいいんだよね。結婚して、まだ(台東区)三ノ輪の実家の近くに住んでた頃、持ち物もない狭い部屋で、日曜日、陽の当たる部屋で陽子が缶ビール。なんにもなくても幸福感がある。なにげなくて単純な日常の写真だけど、いい笑顔なんだよね。写真を撮られることにも慣れてるから、まったく気負いがない顔をしてて。愛があるとき、人はこんなに幸せな顔になるんだな、って思うんだ。

 いい笑顔、いい顔になる一番いい方法は、ちょっとキザだけどさ、人を愛することなんじゃないの? しかも血の流れてる愛だよ。情が通ってるやつ。通い合ってる喜びがあると、それは必ず顔に出るんだよ。

 今はインターネットやメールで他人とコミュニケーションしたり、なんでもかんでもケータイで連絡したりするだろう? そうすることで、いつだってつながってる、って感じがあるのかもしんないけど、やっぱり生身の人間と触れ合ってる方がいいと思うよ。血や肉でつながれない関係は、やっぱり“死”に近いから、それじゃあ生き生きとはならない。いい顔にならない、ってことだね。

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