著者のコラム一覧
細田昌志ノンフィクション作家

1971年、岡山市生まれ、鳥取市育ち。CS放送「サムライTV」キャスターから放送作家としてラジオ、テレビの制作に携わり、ノンフィクション作家に。7月に「沢村忠に真空を飛ばせた男 昭和のプロモーター・野口修評伝」(新潮社)が、第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞を受賞。

2015-2022「那須川天心vs武尊」の記録(下)2人の立場が入れ替わり「何だか恋愛みたいですよね」

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 2020年、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、K-1はさいたまスーパーアリーナでビッグマッチを行った。埼玉県の大野知事までが「中止勧告」と称して会場を訪れる事態となったが、大会は強行。批判にさらされたのは、ここでもエースの武尊だった。KO勝ちを収めると、涙ながらにこう訴えた。

「こういうときだからこそ、格闘技でパワーを与えたい。団体関係なくデカい大会をやります。そのときはK-1とか関係なく応援してください。それに向けて頑張ります」

 かつては「K-1のリングなら」と条件を出していたのが嘘のように、それ以外の選択肢を自ら示したのである。それでも、この年もまた「天心対武尊」は実現しないまま大晦日を迎えた。

 障壁の凄まじさと言っていいが、5年ぶりにRIZINの会場に現れた武尊は、天心の試合をリングサイドで観戦する。思い詰めたような表情の武尊とは対照的に、涼しげな天心の表情を筆者は脳裏に刻んでいる。

 事実、翌21年3月28日のK-1日本武道館大会、KO勝ちで大会を締めくくった武尊は「天心選手と最高の舞台で、最高の試合をしたいです」とアピール。一方、会場に姿を見せた那須川天心は報道陣の質問に「まだ何も決まっていません。未定ですよ」と繰り返した。立場が完全に入れ替わったのである。

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