「三匹が斬る!」の“千石”が当たり役も時代劇に安住なかった

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 一方では、普通の女性選挙に立候補する大竹しのぶ主演の「モナリザたちの冒険」(87年・TBS系)でヒロインの恋人を演じたり、30代半ばのサラリーマンたちが自分たちの隠れ家を作るコメディー「男たちの運動会」(89年・NHK)に主演したりと現代劇にも出演したが、「三匹が斬る!」の“千石”を超える当たり役にはならなかった。

 思えば役所広司は「徳川家康」の織田信長役でチャンスをつかんだ時が27歳で、注目され出したのが30代である。そのため、キャリア的には新人でも、演じる役では大人の男性を求められた。ドラマに出ても最初の頃は、ただセリフを覚えてしゃべるので精いっぱいだったと彼は言うが、現代劇では役柄的に大人の落ち着きや人生の年輪が必要だった。そのギャップがこの時期の彼には感じられる。

 山下耕作監督による映画の初主演作「アナザー・ウェイ D機関情報」(88年)にしても、第2次世界大戦末期のヨーロッパを舞台に、米軍の特務機関の陰謀に巻き込まれる海軍中佐役という、大作の主演を背負うには、まだキャリア不足だった感が否めない。だからこそ、女好きで蛇が嫌いという強いだけではない素浪人を楽しそうに演じた「三匹が斬る!」がより目立つのだが、ここで時代劇に安住の地を見つけてその枠の中で活躍していたら、後の名優・役所広司は生まれなかった。この時期彼は、現代劇でも自分が自由に表現できる場を模索していた気がする。そして90年代に入って、彼は一人のドラマ演出家と出会う。それが鶴橋康夫だった。 (つづく)

(映画ライター・金澤誠)

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