著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

NHKスペシャル「“冤(えん)罪”の深層~警視庁公安部・内部音声の衝撃~」は深層と闇に迫った調査報道の秀作だ

公開日: 更新日:

 年末年始特番の喧騒がようやく下火となった先週末、ガツンとくるドキュメンタリーが放送された。NHKスペシャル「“冤(えん)罪”の深層~警視庁公安部・内部音声の衝撃~」である。

 大川原化工機は横浜市にある化学機械製造会社だ。5年前、社長ら経営者3人が公安部に逮捕された。軍事転用可能な精密機械を中国などに不正輸出した容疑だった。

 身に覚えのない彼らは無実を主張したが、無視される。長期勾留の中で1人は病気で命を落とした。末期のがんだったが、最後まで保釈は許されなかった。ところがその死から5カ月後、突然起訴が取り消される。「冤罪」だったのだ。

 これまでも取材陣は公安部の捜査を検証する番組を作ってきた。第3弾の今回は、入手した部内会議の音声記録を軸に独自取材が展開される。驚くのは録音の内容だ。

 最前線の捜査員たちは「いずれ国家賠償請求訴訟になる」と疑問や不満を抱えていた。一方、幹部たちは無理筋を承知で事件化へと突き進んでいく。

 本当に中国の軍事組織とつながっているかではなく、「それらしい絵」を作ることが重要だったのだ。背後には自身の組織内評価への強い執着があった。やがて幹部たちは昇任を果たし、退職後も取材拒否を続けている。

 個人的な欲が組織を動かし、警察による犯罪を生む。その深層と闇に迫った調査報道の秀作だ。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    亡き長嶋茂雄さんの長男一茂は「相続放棄」発言の過去…身内トラブルと《10年以上顔を合わせていない》家族関係

  2. 2

    朝ドラ「あんぱん」豪ちゃん“復活説”の根拠 視聴者の熱烈コールと過去の人気キャラ甦り実例

  3. 3

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  4. 4

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  5. 5

    「時代と寝た男」加納典明(17)病室のTVで見た山口百恵に衝撃を受け、4年間の移住生活にピリオド

  1. 6

    中居正広氏に降りかかる「自己破産」の危機…フジテレビから数十億円規模損害賠償の“標的”に?

  2. 7

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  3. 8

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 9

    「こっちのけんと」の両親が「深イイ話」出演でも菅田将暉の親であることを明かさなかった深〜いワケ

  5. 10

    長嶋一茂が父・茂雄さんの訃報を真っ先に伝えた“芸能界の恩人”…ブレークを見抜いた明石家さんまの慧眼

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波