あご勇さんが今のエンタメ界を憂う「“体を張れない”芸人も地上波バラエティーも遅かれ早かれ消えていく」
芸人の年金は?
──ところで、高齢者の年金が問題になっていますが、あごさん世代の芸人の年金は?
大変に申し訳ありません!少なくともボクは無年金。実にどうも情けない……。このままだと生活が立ち行かなくなると思って、12年前に家賃18万円の部屋から7万8000円の郊外の3DKのアパートに引っ越しました。借金もいくらか残っているので、とにかく働き続けるが今の生きがいというか目標です。
──さらに還暦になって思わぬ転機が訪れたそうですね。
これまた清水さんのツテで、観光バス会社の社長に声をかけてもらい、17年に国内旅行に添乗できる「国内旅程管理主任者」の資格を取って、バス添乗員に挑戦することになったんです。
──4月22日放送の「ありえへん∞世界」(テレビ東京系)では、添乗員をしている様子が映し出されました。ド派手なメガネと麦わら帽子で自ら引率する「アゴーハツアー」が人気だとか。
コロナ前は月10回から、多い時は16回くらい“出動”しました。千葉の外房、内房、静岡の三島スカイウォーク、山梨、群馬、茨城、埼玉と関東近郊の日帰りツアーがメインですが、これがなかなかやりがいがあって。テレビのバラエティーの出演者って稼働時間は1時間とか、芝居でも大体2時間くらい。だけどバス添乗員は10時間くらいザラ。時間管理とか芸能マネジャーがやるような業務が多いんですが、ボクは細かいことが好きというか、意外と添乗員に向いていることに気が付いたんです。
──畑違いの“転職”ですが戸惑うことはありませんでしたか。
バスツアーは集合時間が朝早いですからね。毎朝4時に起きるようになりました。ツアー前日は禁酒で夜9時には寝ます。おかげさまですっかり健康になりました。
■永野芽郁を泣かした江頭2:50は悪いのか?
──適度に芸能界から距離を置いたからこそ見えてきたものもあるとか。今年3月29日に生放送された「オールスター感謝祭25春」(TBS系)で、お笑いタレント・江頭2:50(59)が永野芽郁(25)を追い回し、永野が涙を浮かべたことで江頭が謝罪し、TBSは反省のコメントを出しました。その後の永野の不倫報道はさておき、今のバラエティーはどう映りますか?
江頭さんは“出演するからには何かしなければ”と使命感を持って出てきたわけだから彼を責めるのはお門違い。TBSはYouTube再生回数の多いスターを出演させて視聴率を上げようとしたけど、安易なキャスティングが空回りしてしまった。演出側の責任ですよ。こんなこと言うとネットで叩かれちゃうかもしれないけど、本来、芸人は命懸けの仕事。そのために穴に落ちて大けがしたり、足を骨折する仲間をたくさん見てきました。“芸人を痛めつけるのがありき”の番組は論外ですが、最近の芸人はお客さまを笑わせるために自分の体をほぼ張らない。“コンプライアンス”の名の下にサラリーマン化したテレビ局も事故やトラブルを避けようとして、体を張ることを許さない。まあ、ボクがそれをどうこう言って嘆いたところで、この流れは絶対に戻ることはないでしょう。残念ながら、地上波のバラエティーも芸人も遅かれ早かれ消えていく運命にあると思います。
──フジテレビのテレビマンは、経費で高級ホテルのスイートルームを借り切って、芸人とドンチャン騒ぎを繰り広げる痴態が第三者委員会の報告書でさらけ出されました。
会社の経費でスイートルームってやっぱりサラリーマンだよね。どこの局とか事務所とか言えませんけど、事務所幹部に小遣いをせびりに来るテレビマンはボクの時代からいた。サラリーマン根性は昔から。そうした不適切な関係が先輩から後輩へ脈々と伝えられ、気が付けばテレビ局が事務所や有力タレントの言いなりに何でもやってしまうようになってしまったわけです。今回、中居正広さんが引退して、フジテレビは役員人事刷新して“ハイおしまい”みたいな流れになっているけど、そんなものでたまりにたまった膿を出しきれるわけがない。癒着構造が続く限り、他局も含めて同じような問題が繰り返されていくと思います。
(聞き手=岩瀬耕太郎/日刊ゲンダイ)
▽あご勇(あご・いさむ)1957年8月14日生まれ。67歳。千葉県出身。74年に「ぎんざNOW!」の「素人コメディアン道場」で7代目チャンピオン。「ザ・ハンダース」「アゴ&キンゾー」を経て、2017年に旅程管理主任者の資格を取得。芸能活動と並行してバスツアー添乗員をしている。