映画「ぶぶ漬けどうどす」に見る京都人の二面性 本当は恐ろしい老舗の女将さんたち
4コマ漫画の多用で「一粒で二度おいしい」
本作の面白さの大きな要素が4コマ漫画の多用だ。まどかが直面した女将連中のきつい問答、義母の内心を探る気苦労、いわくつきの不動産業者による恫喝などが実写映像に続きユーモラスな絵として登場。笑いが二重の波となって押し寄せるため「一粒で二度おいしい」と満足できる。
まどか役の深川麻衣のほか室井滋、松尾貴史、片岡礼子などいずれも芸達者ばかり。特に存在感を示したのが劇中で「安西ちゃん」と呼ばれる漫画家を演じた小野寺ずるだ。メークで不美人な容貌をつくり、漫画を描くのが楽しくて仕方ないというオタクなキャラと演じている。
この安西ちゃんが京都の町でまどかに同行。用心棒のように常にタブレットをかまえ、まどかに立ちはだかる厄介な連中をその場で描いていく。隠れた狂言回しとして物語を進行させ、客席の笑いを盛り上げるという寸法だ。小野寺ずるの控えめな演技が印象に残った。
この映画を見て思ったのは「俺は田舎の出身だが、東京に住んでよかった」ということ。筆者のような鈍感な田舎者は顔で笑って心で怒っている京都人の心中を読み取るような高等テクニックは到底できない。
「ぶぶ漬けどうどす」は京都人が来客者にそろそろ帰ってほしいとの気持ちを暗示する慣用表現らしいが、筆者などは「それじゃいただきます」と応じてさらに泥沼にはまるだろう。そうした古き都の危険性が散りばめられた快作である。(配給:東京テアトル)
(文=森田健司)