57歳で俳優デビュー…好奇心を満たす限り田中泯は「わたしの子ども」を裏切らない
そんな彼に転機が訪れたのは57歳のとき。田中の舞台を見に来ていた山田洋次に請われて、02年の映画「たそがれ清兵衛」(松竹)に出演したのだ。
もちろん、演技は初めて。セリフを発するという方法からわからなかった。俳優は長い時間をかけてセリフの技を磨く。だが、それは自分にはできない。ならば自分は「体の技を磨いて、そしてその磨かれた体から出る言葉をセリフにしよう」(同前)と決めた。
そうして踊るように演じた田中は日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞などを受賞し、以後、さまざまな映像作品から引っ張りだこになっていくのだ。俳優の仕事も「好奇心を満たすものであるかぎり、続けよう」と思っているという(ほぼ日「ほぼ日刊イトイ新聞」22年1月28日)。
彼が表現する中で大事にしていることのひとつは「わたしの子ども」という感覚だ。「子どものころに感じた違和感、ああいう大人にはなりたくない……だとか、あんな嘘だけはつきたくない……」、そう感じた「自分を、裏切っては生きられない、ということ」だ(「ほぼ日刊イトイ新聞」22年1月27日)。