天涯孤独で踊り続けて(1)ステージのメインから裏方の荷運びまで「1人5役」
静寂の暗闇に照明があたり、赤い法被姿のせいかが美空ひばり「お祭りマンボ」のリミックスに合わせて立ち上がると、「ヌード劇場 シアター上野」は祭りのような盛り上がりをみせた。
ことし3月、せいかの還暦イベント「生誕祭」ステージの客席には「おひねり」を持ったシニア男性のほか、インバウンド客や女性の姿もあり、会社員のK子さんは「とにかくかっこいい」と言って、カラフルなコンサートライトを振っていた。大好きなバラの花束を持ったバイト仲間も祝福に駆けつけ、せいかは花束を胸に少し目を光らせてこう挨拶した。
「ありがとう、わたしはホンマに幸せ者です。もっと『ハニトラ』を愛してもらえるよう、がんばります。70歳まで、あと10年は続けるつもりです」
せいかは関西弁のマシンガントークを飛ばすきっぷのいい姉御肌だが、劇場では女神のような顔もみせる。舞台を降りると、ひとり客席の隅に座り、スタッフが話しかけてもほとんど反応しなかったシニア男性のもとに近づき、何ごとか囁きかける場面もあった。男性は表情を和らげ、ホッとしたように何度もうなずいていた。ミラーボールがまわる大衆娯楽の殿堂は昭和レトロの雰囲気のまま、こうした「推し」や「癒やし」の対象にもなっている。