追悼・遠野なぎこ“重い演技”の裏にあったもの…朝ドラ女優の確かな演技力でも抜けきれなかった哀しい生い立ち
熊井監督に「思いの強さがあるのはいいが、気持ちの出し方が重い。これでは男の方が重荷に感じてしまうのでは?」というと、「あの子はかわいそうな過去を持っているんだ。それがお新と重なって、ああいう演技になるんだと思う」と監督は言っていた。
この時、遠野なぎこが幼児期から母親に虐待を受け、15歳で摂食障害になり、16歳で睡眠薬自殺未遂を起こしたことは、まだ知らなかった。しかし自分が不幸せだからこそ不幸せな男性に同情し、恋してしまうお新のキャラクターには、どこかシンクロする部分を感じていたのだろう。監督はそんな彼女から幾分かでも“重さ”を削り取ろうとしたし、彼女もそれに応えようと悩んでいた。だが最後まで不幸の影を背負った重い表現から、遠野なぎこは抜け出すことはできなかった。
2002年に公開された映画は、興収3億円と惨敗。遠野なぎこにとって最後の映画主演作となり、その後は「冬の輪舞」(2005年)、「麗わしき鬼」(2007年)と、東海テレビ制作による昼ドラのヒロイン役に活路を見いだしていく。
しかし女優としての活躍はこの辺がピークで、以降はバラエティー番組の出演が多くなった。今でも「海は見ていた」のときに、お新と自分が抱えるネガティブな人生観の先に、表現者としてささやかな希望を見つけられたら、彼女の女優人生は違ったものになった気がしている。はっきりとしたことは今も不明だが、その孤独な行く末が悼まれてならない。