元気だったので驚いた…小説家の水戸泉さん子宮体がんを振り返る

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水戸泉さん(小説家/51歳)=子宮体がん

 去年6月に子宮と卵巣、卵管、リンパ節の全摘出手術を受けました。その後、12月まで抗がん剤治療をして、現在は経過観察中です。

 異変は昨年2月でした。突然、生理が止まらなくなったのです。それまでの生理は規則正しく、生理痛もなく、いたって順調でした。異変を感じても痛みがないので、「更年期になると、こういうこともあるのかな」ぐらいにしか考えていませんでした。

 4月ごろになって友人の女医に「止まらないんだよね」と打ち明けると、「それヤバいよ。すぐ病院に行ったほうがいい」と助言され、やっと近所のレディースクリニックを受診しました。超音波で調べてもらったところ「子宮内膜が見過ごせない分厚さ」だとわかり、組織を採って調べることになりました。でもクリニックでは麻酔ができないため、採取を試みたものの痛すぎて断念。麻酔ができる総合病院を紹介されて、組織を採ってもらうことになりました。

 ただ、全身麻酔の場合は1泊入院が必要とわかり、自宅に愛犬がいて帰りたかった私は、結局、麻酔なしでお願いすることに……。激痛でしたが、外科医の腕が良かったようで、なんとか必要な大きさの組織が採れました。

 結果は「子宮体がん」でした。先生に「ご家族と一緒に来てください」と言われた意味にまるで気づかず、一人で行って、一人でがん告知を受けました。ショックというよりびっくりでした。がん家系ではないし、どこも痛くないし、止まらない出血とはいえ貧血もない。とても元気だったので、「これでもがんなのか」という驚きです。医師によると初期のがんは痛くないのが大半だそうです。

 そのときに告げられたのは、最も初期である「ステージ1a」。術後に抗がん剤をするかしないかは五分五分とのことでした。リンパ節を残す選択肢もありましたが、主治医の判断ですべて切除してもらいました。

■どうしても髪を残したかったが…

 経過は良好でした。術後の病理検査でステージ2だったことが判明したので、いい判断をしていただいたと思っています。

 手術は6~7時間かかりました。腹腔鏡手術だったので体の負担は少なく、特につらかったことはありません。それよりも、ステージ2だったことで抗がん剤治療が決定したのが、自分にとっては一番のショックでした。がん告知でも動揺しなかったのに初めてへこみました。というのも、私はどうしても髪の毛を残したかったのです。

 それで、じつは転院を考えました。「頭皮冷却」という処置をすると脱毛の副作用が抑えられると聞き、それを実施している病院に移りたいと主治医に訴えたのです。でも「髪の毛はまた生えてくるから」と説得され、転院はあきらめました。

 抗がん剤は全6回でした。1回目の10日目あたりでごっそりと頭髪が抜けました。さらに6回目までの間にありとあらゆる毛が抜けました。まつげがないと自然と涙が出ちゃうし、鼻毛がないと風邪をひきやすくなるので要注意でした。もちろん下の毛もなくなりまして、なんともいえない違和感で地味につらかったです。要らない毛はないんだと、失ってみて初めてわかりました。

 吐き気については、最近は良い予防薬があるせいか感じませんでした。ただ2回目あたりから味覚障害が出て、甘いものがダメになりました。セメダインのような味がこみ上げてきて、大好きなシュークリームは泥の味です。でも塩気は平気で、食事は普通に食べられました。

 変化が大きかったのは、好中球の激減です。1回目の抗がん剤のあと、自宅で高熱が出て救急車で運ばれました。最低でも1500/マイクロリットル必要な好中球が99/マイクロリットルまで下がっていました。好中球は感染を防ぐ役割を持つ白血球の一種です。抗がん剤の副作用で減少してしまうので、2回目からは減少を抑制する注射(保険適用で1回3万円)を打つようになりました。

 抗がん剤治療の後半は動悸や息切れもひどく、たった5分の犬の散歩で心臓がバクバクして歩けなくなり、母に連絡して迎えに来てもらったこともあります。

 一方、われながら正解だったと自負しているのは、手足がしびれる副作用対策です。抗がん剤を打つたびに手のひらに保冷剤を握り、脚にはギュッと締めつけるような包帯を巻いていました。血管を収縮させることで抗がん剤を末端に流れにくくさせるのです。医学的根拠があるわけではありませんが、おかげさまで私は手足のしびれを最小限に抑えられたと思っています。今は月に1回の検診で血液検査をするくらいで、何の薬も飲んでいません。副作用も抜けて体調はものすごく良好です。

 大病を経て、時間を大切にしようと思うようになりました。そして夫や母、義理の両親がとても良くしてくれたので恩返しをしていきたい。当たり前のことができる喜びを忘れないようにしたいです。

(聞き手=松永詠美子)

▽水戸泉(みと・いずみ) 1971年、神奈川県生まれ。96年に茜新社の小説誌「小説オヴィス」でデビュー。「ロマンスの王様」などボーイズラブ小説を中心に著書は100冊を超える。ゲームシナリオや漫画原作も手掛ける。近著に「完全版 ヴァンパイア・ホリック」(プランタン出版)。子宮体がん体験記ブログ〈http://ameblo.jp/mittochi01〉。

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